有価証券の信託
有価証券の信託は、信託契約により有価証券を信託銀行等に信託する信託です。
有価証券の信託には、有価証券の管理事務の軽減を目的とするものや、保有する国債等を貸し出すことにより運用収益を得る目的とするもの、インサイダー取引等の防止のために株式の売却を目的とするものがあります。
概要
有価証券の信託は、信託銀行等に有価証券を信託する目的によって、有価証券管理信託、有価証券運用信託および有価証券処分信託の3種類に分類されます。
有価証券の管理事務の軽減等を目的とする有価証券管理信託、保有する国債等を貸し出すことにより運用収益を得る目的とする有価証券運用信託、インサイダー取引等の防止のために、一定の条件で株式の売却を任せる有価証券処分信託がありますが、ここでは、利用されることが多い有価証券管理信託と有価証券運用信託についてご説明します。
有価証券管理信託
高齢や長期にわたる海外滞在等の事情によって自分自身で有価証券を管理することが困難な場合や、多種・多量の有価証券の管理事務が大きな負担となっている場合に、有価証券の管理を目的に、信託銀行等に有価証券を信託する有価証券管理信託が利用されています。
有価証券管理信託を利用することにより、信託銀行等に適正に保全・管理してもらうことができるほか、公社債の利子、償還金の取立てなどの事務を正確・迅速に処理してもらうことが可能となり、有価証券にかかる事務負担が軽減されます。
このような有価証券管理信託は、退職給付会計基準に対応して、年金資産の確保のための退職給付信託などにも利用されています。
有価証券運用信託
有価証券運用信託は、有価証券の管理のほか、受託した有価証券を運用して収益をあげることを目的とした信託です。
有価証券運用信託を利用する場合には、種類や数量がある程度まとまり、抽選償還のないものが望ましく、かつ流通性・安全性を備えていることが必要とされることから、債券(特に国債)がその利用の大半を占めています。
有価証券運用信託には、受託した有価証券の運用方法により、1. 信託銀行等が有価証券を第三者に貸し付けて貸付料を得る貸付運用型と、2. 信託銀行等が有価証券を担保としてコール資金等を借入れ、その資金を貸付や有価証券に運用することにより利ざやを得る担保運用型がありますが、実際に利用されている多くは貸付運用型となっています。
信託銀行等に信託した有価証券を貸し付けて運用することによって、貸付料を収受し、より高い収益を得ることが可能となります。
仕組み
※ここでは有価証券運用信託(消費貸借型)の仕組みについて説明します。
主な関係者
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- 委託者兼受益者
- 機関投資家
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- 受託者
- 信託銀行等
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- 貸付先
- 事業法人等
1機関投資家(委託者兼受益者)と信託銀行(受託者)の間で信託契約を締結し、有価証券を信託します。
2信託銀行(受託者)は、事業法人等と有価証券の賃貸借契約を締結し、受託した有価証券を貸し付けます。
3事業法人等は借り入れた有価証券を市場で売却し、資金調達します。
4貸付先(事業法人等)は、信託銀行(受託者)に所定の貸付料を支払い、信託銀行(受託者)は、信託報酬を差し引いたうえで、機関投資家(委託者兼受益者)に交付します。
5信託契約満了時には、貸付先は借り入れた有価証券と同銘柄・同額面・同量の有価証券または償還金相当額の金銭を信託銀行(受託者)に返還します。
6信託銀行(受託者)は、貸付先から返却された有価証券または償還金相当額の金銭を機関投資家(委託者兼受益者)に返還します。
よくあるご質問
有価証券の管理信託の場合、受託者が有価証券の保管、公社債の利子・償還金の取立てなどを行うため、委託者にとって事務負担が軽減されます。つまり、委託者(機関投資家)が直接有価証券を管理するノウハウがない場合や、高齢や長期にわたる海外滞在等の事情によって自分自身で有価証券を管理することが困難な場合に利用されます。
有価証券運用信託の場合、保有する国債等の有価証券を国債を必要とする機関投資家に貸付け、貸付料を収受することによって、より高い利回りを享受することができることから、保有する資産の有効活用を図るために利用されています。