会長定例記者会見(三井住友トラストグループ 高倉社長)
2025年03月21日
冒頭、川嶋専務理事より、本日、「信託業界のありたい姿(2050 年に向けて)」の策定について公表した旨の説明を行った。
高倉会長
信託協会の会長の高倉でございます。
昨年4月の協会長就任時に「人生100年時代のWell-being」や「ESG・サステナビリティ課題への取組み」といったテーマを掲げ、この1年間、活動してまいりました。活動成果をお話しさせていただきます。
1点目の「人生100年時代のWell-being」については、少子高齢化が進展する中、「教育資金贈与信託」や「結婚・子育て支援信託」の更なる普及に努めてまいりました。特に、非課税措置の適用期限が今月末に到来する「結婚・子育て支援信託」については、2年間の延長が措置されることとなりました。
また、確定拠出年金の拠出限度額の引上げなども措置されることとなり、企業や個人がより多くの資金を運用に回すことができ、豊かな老後の実現や若年層からの資産形成の後押しになるものと考えています。この資金循環が市場の活性化や経済成長に寄与し、「資産運用立国」の実現に向けた重要な一歩になるものと考えております。
2点目の「ESG・サステナビリティ課題への取組み」については、昨年6月に公益信託法が成立し、今後、企業や国民が公益活動を展開していく手段として、公益信託の幅広い活用が期待されるところです。当協会としても、公益信託の普及・発展を通じた公益活動の活性化に寄与できるよう、昨年12月に「公益信託の未来を展望する」と題したシンポジウムを開催しました。足元では、新しい公益信託がよりよい制度となるよう、また、既存の公益信託が円滑に移行できるよう、来年予定されている施行に向け、内閣府や有識者とともに検討を進めております。
次に、信託協会の体制強化に関係するお話をいたします。
昨年の9月には、プロダクトガバナンスの確立に向けて、「顧客本位の業務運営に関する原則」の改訂が行われました。このことも受け、信託協会の内部にワーキング・グループを立ち上げ、本原則等に係る好事例の共有や情報交換等を行ってまいりました。我々は、様々な場面で受託者(フィデューシャリー)となりますが、フィデューシャリーとして「お客さまの最善の利益を第一に、自ら考え、自ら判断し、自ら行動する」ことが重要であると考えております。引き続き、お客さま本位の姿勢と忠実義務をはじめとした受託者責任を全うし、信託業務を確実に遂行することにより、お客さまや社会への「安心」を提供してまいります。
加えて、来年度には信託協会が創立100周年を迎えます。創立100周年を迎えるにあたり、高齢社会や自然環境などのさまざまな環境変化を踏まえ、人々や社会から必要とされます信託制度、信託商品・サービスを展望できるよう、お手元にお配りさせていただきました、「信託業界のありたい姿」を見定めました。このありたい姿に向けて、信託協会および加盟会社それぞれにおいて、協働的かつ自立的な活動を一層加速していければと考えております。
簡単ですが、以上がこの1年間の振り返りになります。
これまで申し上げました取組みや成果は、信託協会の活動に関係する全ての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りしまして、改めて御礼を申し上げます。
最後になりますが、会長会社としての務めは、4月に三菱UFJ信託銀行さんに引き継がせていただきます。皆様におかれましても、今後とも信託協会の活動に対して、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
以下、質疑応答
資産運用立国に対するこの1年の活動について
- 問:
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足元、政府が資産運用立国の取組に力を入れる中、信託協会や信託業界としてどのように関わってきたか。
- 答:
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資産運用立国に向けました様々な政策により、国民の投資意欲が高まってきております。
投資によって企業が持続的に成長し、さらにその利益が家計へと還元される価値創造の連鎖が、経済成長の基盤になると考えております。
振り返れば、わが国の実質GDPはこの20年で1.1倍の増加にとどまっております。また、預金残高も1.8倍の増加にとどまっておりますが、信託財産は3.4倍の増加になり、足元では1,700兆円に達しております。このように信託の利用は拡大を続けており、資産運用立国の政策も追い風に、今後も、更なる発展ができると考えております。
価値創造の連鎖である「インベストメントチェーン」において、信託業界は、「企業年金などのアセットオーナーをサポートし、伴走する立場」、そして、「大切な資産をお預かりし、管理する立場」といった、様々な立場で関わりがございます。
企業年金をサポートする立場としては、昨年8月に政府によって策定されましたアセットオーナー・プリンシプルを浸透させることが重要と考えております。
より多くの企業年金がプリンシプルの受入れを表明し、前向きな取組みができますよう、厚生労働省とも意見交換を実施し、各社におきましてはセミナー開催なども通じて普及活動を続けております。
今後とも、アセットオーナーのニーズに寄り添い、“良き相談相手”として、運用力の強化に貢献してまいります。
また、資産を管理する立場では、投資信託の基準価額一者計算を実現するために、投資信託協会と協議を続けてまいりました。現在は、個社個別の検討を進めているところでございますが、引き続き、業界としても適時適切に連携してまいりたいと考えております。
個社の話になりますが、本日、資産運用業界全体の業務効率化を目指し、大和証券グループと業務提携をしたことを発表しております。これにより、新規運用業者が参入しやすい環境整備を促進し、資産運用業界全体の発展を目指してまいります。
信託業界のありたい姿について
- 問:
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2050年に向けて「信託業界のありたい姿」を公表されたが、かなり長いスパンでの取組みであり、信託協会あるいは会員各社で、短期・中期も含めて必要な取組みについて、会長としてどのようにお考えか。
- 答:
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お手元にお配りしている「信託業界のありたい姿」に記載していますが、「フィデューシャリー・デューティーを高度に発揮し、時代の変化に応じた社会課題の解決や社会的価値の創出をリードする存在」というのが、1つ目のありたい姿です。もう1点は、「国民から広く認識され必要とされるよう、信託を発展させ普及する存在」、こういう2点を定めました。
具体的な取組みにつきましては、来年度以降、協会内で議論していくことになりますが、信託の普及に向けた認知度の把握、認知度の改善のためのPDCAサイクルの実行、人的資本の強化を進めていきたいと考えております。
中長期的には、時代の変化に合わせた信託協会の体制の再構築といったことも検討していく必要があると考えております。
人的資本の強化につきましては、信託協会内部だけでなく、信託の担い手になる方々への支援も重要であると考えております。
信託協会の加盟会社は、私が旧住友信託銀行に入社した1984年には信託銀行のみでしたが、信託会社や地域金融機関に広がり、現在は90社を数えるまでになっております。
近年では、家族間における信託の拡大も顕著であり、信託の担い手が増えることにより、信託に触れる方々も増え、信託の普及が進んでいると感じております。
信託の担い手がフィデューシャリーとしての役割を全うできるよう、新たに信託の担い手になる方々に対しても、適切な情報提供などの支援が極めて重要であると考えております。
例えば、今年度は、家族間における信託に関する公開セミナーを開催し、弁護士や司法書士など多くの方々に、裁判事例や実務上の留意点をお伝えしたところです。
このような活動により、信託の適切な利用・運営が広まり、国民の「信託」への信頼が向上するといった好循環に繋がっていくことを期待しております。
信託業界を取り巻く環境が変化する中においても、「信託」が皆様や社会にとって必要とされるものであり続けられるよう、信託業界としてぶれない軸をもって、信託協会・加盟会社それぞれが切磋琢磨し社会的価値を創出していければと考えております。
実質株主の把握に向けた取組みについて
- 問:
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会社法改正にあわせて上場企業から実質株主の開示請求やその通知に関わる業務が増えることを見越して、共同システムの構築の議論をされていると認識している。現在の検討状況と、信託業界としてこうした時代の要請にどう対応していくべきと考えているか伺いたい。
- 答:
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スチュワードシップ活動の実質化を進めていく中で、実質株主の透明性確保というのは非常に重要なテーマだと認識しております。金融庁のスチュワードシップ・コードに関する有識者会議に当協会も参加し、透明性確保の実現に向けた制度や運用の在り方について、議論してまいりました。今後、法務省におきまして、会社法改正にかかる議論が行われていくと認識しておりますが、信託業界としても引き続き、実効性のある仕組みの構築に向けて貢献してまいりたいと考えております。
ご質問にありましたように、実質株主にかかる共同システムの議論があると、報道でも出ていたのは承知しております。実質株主の透明化については、名義株主や株主名簿管理人等の立場として、信託業界が深く関係するテーマであり、金融庁の会議体への参加や関係先との意見交換を継続しておりますが、共同システムの構築も含めまして、具体的な検討にまでは現時点では至っておりません。今後予定されております会社法の改正にかかる議論の動向も踏まえながら、引き続き業界横断での検討に積極的に参加してまいりたいと考えております。
- 問:
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もう少し広く、実質株主を把握していくという中で、株主名簿を扱っている信託銀行としてどういった貢献ができるとお考えか。
- 答:
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様々なチャネルから様々な方式で企業に投資される方がいて、株主名簿から実質的な株主を辿っていくことが必要になりますが、これにもいくつかのルートがあり、そのルートそれぞれに応じて、どのようなやり方で共通認識を持ちながら取り組んでいくのが適切かをよく議論していく必要があると認識しております。信託銀行としては名簿管理業務を行っておりますので、それぞれのルートに応じた適切な方法を構築する中で貢献できる部分があると認識しており、今後の検討に積極的にかかわってまいりたいと思っております。
- 問:
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SR、IR関連の業務は各社それぞれで行っており、競争領域だと思うが、非競争領域になってしまうことへの懸念はあるか。
- 答:
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SR、IRの業務は、各社がそれぞれの方針で取り組んでおり、非競争領域として共通化できるような展望が持てる領域と、競争して差別化していくことが可能な領域がございます。非競争領域として共通化が展望できるような領域は今後そういったことも議論されていくと思いますし、競争領域は各社が切磋琢磨してやっていくことになろうかと思います。
NZBAへの対応について
- 問:
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三井住友トラストグループはNZBAへの加盟を続けていると思うが、最近、MUFGも離脱するなど、離脱が相次いでいる中で、信託協会の会長としてこうした動きについてどのように感じているか。
- 答:
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世界の各地で異常気象や自然災害が起こっております。Well-beingの危機とも言えるようなこの気候変動の問題への対応は、各主体が真剣に取り組んでいく必要があるテーマだと思っております。脱炭素に関しては、国際的な様々な枠組みがございます。これについて、各国もそうですし、各企業それぞれが判断して取り組んでいくということだと思っています。ただ、そのWell-beingを良い状態で保っていくということを考えたときに、その枠組みに入る・入らないというよりも、Well-beingを維持するのに有用かどうかという点に着目していくというのが大事な観点ではないかと思っております。我々個社のことで申し上げますと、NZBAについて、他社の対応を報道では承知しておりますが、我々のお客様である国内外のアセットオーナーの考え方も理解しながら、行動していく必要があるテーマと考えております。
金融機関の不祥事の受け止めについて
- 問:
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この一年間を通じて金融業界では様々な不祥事が相次いだが、こうしたことをどのように受け止めているか。
- 答:
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金融機関で様々な不祥事が発生していることにより、世間をお騒がせし、ご心配もおかけしていることについて、誠に申し訳ないと思っております。金融機関は公共的な使命があり、お客様や社会からの信頼が、事業を行っていく上での大前提となります。各社におきましては、コンプライアンスの意識の醸成に加え、法令遵守体制、内部統制の仕組みをしっかりと構築していくことが大事なテーマだと認識しています。
NZBAへの対応について
- 問:
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NZBAについては、国内外のアセットオーナーの考えも理解しながら行動していく必要があるとおっしゃったが、今の観点でいうと、国内外のアセットオーナーの考え方をどのように理解し、どういった形で対話をしていくことをお考えか。
- 答:
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NZBAのことになると個社の話になってしまいますが、信託業界全般で言うと、先ほど申し上げましたように、様々な国際的なイニシアティブがあり、その様々なイニシアティブに、各社それぞれが判断し、参加し、取り組んでいくということになっております。信託の業務の性質として、資産運用、資産管理の領域で重要な役目を果たし、資本市場で様々な機能を提供させていただいておりますので、我々にとってアセットオーナーは非常に重要な存在であり、日ごろから様々な対話を行っているところです。その中で各社それぞれ十分な対話をしながら、適切な行動を各イニシアティブの中でとっていくことになろうかと思います。
大和証券グループとの業務提携について
- 問:
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大和証券グループとの業務提携について、資産運用業界全体の効率化につなげていきたいとのことだが、どれくらいのコスト削減効果が見込めるのか、何か具体的な数値があれば伺いたい。
- 答:
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個社の話ですが、本日、大和証券グループ本社、大和総研、三井住友トラストグループ、および三井住友信託銀行が共同で業務提携のリリースをしています。この業務提携を通じて、政府が掲げる資産運用立国実現プランに貢献するため、資産運用・資産管理の分野で様々な取組みを行っていく予定です。例えば、三井住友信託銀行はアセットマネジメント会社からミドルオフィス・バックオフィス業務のアウトソースを受け、大和証券グループはIT面でも資産運用会社のサポートをこれまでも取り組んでこられました。三井住友トラストグループと大和証券グループが、実務のアウトソースとITソリューションの両方掛け合わせることで、新しいチャレンジが可能になると考えています。さらに、これから新しく参入しようとする資産運用会社が運用に専念できるようにするため、手間暇のかかるミドルバック業務をサポートしていく仕組みを、両グループが協働して作っていけると考えています。なお、具体的なコスト削減効果は、個別の案件ごとに算出しながら取り組んでいくことになりますが、幅広く、色々な取組みができる領域だと考えております。
家族信託について
- 問:
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高齢化の進展やこれに伴う認知症患者の増加を背景に、認知能力が落ちた後でも、資産形成を続けられるようにすることの重要性が高まっている。先日、日本証券業協会によって、認知症になった後でも株や投信の売買ができる仕組みが発表された。家族間の信託も同様に貢献できる分野だと思うが、信託協会として、信託銀行業界として、どういった役割が果たせると認識しているか。
- 答:
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今ご質問がありましたのは、我々のような金融機関が受託者となる信託ではなく、家族間などで設定される所謂「民事信託」のことと理解しました。民事信託は、高齢社会の進展とともにニーズが広まってきております。民事信託は家族間で設定されることが多いため、民事信託の受託者はご家族の方が太宗です。この受託者がフィデューシャリーとしての役割をしっかりと履行して、民事信託の適切な利用、運営が広まっていくことが、非常に大事だと思っております。信託協会としては、こういった家族間の信託の健全な普及、発展に向けて、民事信託を利用する際の留意点等を広く周知することが非常に重要なテーマだと受け止めております。そういった想いから、今年度はオープンセミナーを実施し、世の中に発信していくことに踏み出したところです。
個社の取組みになりますが、昨年の12月に、民事信託の信託財産の管理や報告書類の作成のサポートをクラウド上で行う、民事信託の受託者向けのサポートシステムの提供を開始しております。民事信託で受託者の方が負担となるような業務を、信託財産の管理を長年行ってきた信託業界がサポートすることで、適切に民事信託が運営される社会になることを願っております。
- 問:
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現状、民事信託における契約のサポートは行政書士や司法書士等の士業が主な担い手となっていると思うが、信託銀行としても、もっとやることがあるのではないかとの認識か。
- 答:
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士業の方々とも、普段から意見交換もさせていただいております。これも個社の話になりますが、例えば、我々が民事信託の受託者の口座を開設する際、民事信託の適切な契約が締結されているか否かが非常に重要なポイントになります。これはご質問にありましたように、士業の方々がサポートされていますので、士業の方々とも何年も前から、様々なケースに応じて、意見交換を進めてきました。そういった契約書作りに際して、適切な契約書というのはどういったものなのかなどといったことを、士業の方々との意見交換を通じて社会に伝達をし、良いものが普及していけるようにという努力をしております。
NZBAへの対応について
- 問:
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個社として、NZBAの脱退を選択肢として検討しているか。
- 答:
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今日のこの場は信託協会の話ですが、個社の話で言えば、報道で、他社がどうされているのかということは承知しております。我々としてこの気候変動に関しては、様々な取組みをしておりますが、その様々な取組みの中で、今後どのような形で様々なイニシアティブに参画していくのが適切かということを、常に念頭に置きながら、議論を進めているという状況です。
以上