会長定例記者会見(三井住友トラストグループ 高倉社長)
2024年10月17日
冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、「規制改革に関する提案」をとりまとめ、内閣府規制改革推進室宛てに提出した旨の説明を行った。
また、12月20日(金)に東京商工会議所で「公益信託法改正に関する公開シンポジウム」を開催するので是非ご参加いただきたい旨案内したほか、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。
高倉会長
信託協会長の高倉でございます。
それでは、この半年間の振り返りを行います。これまでの活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。
協会長就任時の所信として、「社会・経済課題の解決を通じた豊かな未来への貢献」と「受託者精神に立脚した『安心』の提供」の2点を掲げております。
第一の「社会・経済課題の解決を通じた豊かな未来への貢献」については、「人生100年時代のWell-being」、「ESG・サステナビリティ課題への取組み」の2つのテーマに注力し、活動してまいりました。
1点目の「人生100年時代のWell-being」については、少子高齢化が進展する中、「教育資金贈与信託」や「結婚・子育て支援信託」の更なる普及に努めてまいりました。特に、非課税措置の適用期限が今年度末に到来する「結婚・子育て支援信託」については、こども家庭庁及び金融庁において税制改正要望を掲げていただきました。
また、今月の初めには、後見制度の先進国であるドイツの研究者・実務家を招いたシンポジウムを協賛・開催するなど、超高齢化社会における信託制度の活用可能性も視野に検討しているところです。
資産運用立国に向けた政策が具体化し、アセットオーナーに対しては、運用・ガバナンス・リスク管理の指針であるアセットオーナー・プリンシプルの適用が開始されました。企業の持続的成長や価値向上を目指すコーポレートガバナンス・コード、機関投資家の規範であるスチュワードシップコードと相まって、資本市場の高度化に繋がり、その果実が家計にも還元される好循環が生まれることが期待されます。信託業界は、アセットオーナー、企業、機関投資家と密接に関わる立場として、この好循環に貢献していきます。
また、本年4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC)が8月に本格稼働したところです。資産運用立国の実現には、家計の金融リテラシーの向上も非常に重要であり、信託協会としてもその取組みを後押ししていきたいと考えています。
2点目の「ESG・サステナビリティ課題への取組み」については、通常国会にて公益信託法が成立し、信託を通じた公益活動の活性化が期待されるところです。再来年度に予定される施行に向け、新公益信託がよりよい制度となるよう、また、既存公益信託が円滑に移行できるよう、政府との協議を継続してまいります。
第二の「受託者精神に立脚した安心の提供」については、プロダクトガバナンスの確立に向けて、「顧客本位の業務運営に関する原則」(FD原則)の改訂が行われました。信託協会としても、本原則等に係る好事例の共有や情報交換等の場として「顧客本位の業務運営に関するワーキング・グループ」を立ち上げ、加盟会社の「プリンシプルベース」での顧客の利益を最優先にした業務運営を後押ししていきます。引き続き、お客さま本位の姿勢と忠実義務をはじめとする受託者責任を全うし、信託業務を確実に遂行することにより、お客さまや社会への「安心」を提供してまいります。
信託業界では、社員会社各社が100周年を迎える中、来年度には信託協会の創立100周年を迎えます。現在、信託協会では、「信託業界のありたい姿」について経済学者とともに検討を進めています。今年の夏の暑さを鑑みても、今後より一層の深刻化が予想される気候変動の問題やAIをはじめとしたテクノロジーの驚異的な進化などの社会の変化に対し、信託の力が十分に発揮できるような「ありたい姿」を見定めてまいります。
以下、質疑応答
新総裁の政策に対する受け止め
- 問:
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先月発足した石破新政権について、岸田政権の資産運用立国を引き継いだうえで、新しく投資大国という事を発表していると思うが、石破新総裁が掲げる政策について、信託業界としてどのように受け止めているか。
- 答:
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新政権は、成長と分配の好循環を通じたデフレからの完全脱却とともに、公正・公平で持続可能な全世代型社会保障制度の構築、地域経済の活性化などを推進していく方針であり、各政策の遂行に期待しています。
石破総理が特に力を入れる地方創生については、地方銀行等の信託ビジネス参入により、幅広い地域において、様々なニーズを持つお客さまに対して、信託を通じた課題解決の機会が増えているものと認識しています。
また、金融政策については、岸田政権が進めてきた「資産運用立国」の政策を引き継ぎ、産業に思い切った投資が行われる「投資大国」に向けた施策を講じていくものと承知しております。
変化の大きい時代にあって、日本国内への投資を喚起していくことは未来への備えとして大変重要なことであると考えており、信託の機能を発揮し、「投資大国」の実現に貢献してまいります。
信託業界のありたい姿
- 問:
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先ほど、信託協会としても来年100周年を迎えるという話があったが、信託業界としてどういった役割を果たしていきたいか。冒頭で、経済学者とともに「信託業界のありたい姿」について議論しているという話があったが、そこではどういった検討がされているのか。
- 答:
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2026年に信託協会の設立100周年を迎えるにあたって、「信託業界のありたい姿」について、外部講師を招き、経済学者とともに現在、議論をしているところでございます。
具体的には、まず、これまでの100年を振り返るということを行っております。そして、2050年を見据え、高齢社会やテクノロジー、気候変動などをテーマに、必要とされる信託制度、信託商品・サービスなどについて、意見交換をしながら検討を行っているというのが現状でございます。
私が旧住友信託銀行に入社した1984(昭和59)年の信託業界を振り返りますと、信託財産総額は74兆円で、信託協会の加盟会社も信託銀行だけでございました。
この40年の間に、信託財産総額は1,700兆円、加盟会社も信託会社など約90社に拡大し、入社当初は想像できなかった領域の拡張が起きています。
変化の大きい今日において、将来に向けて備えることは大変重要であると考えています。
世の中の求めに応じ、信託業界が携わる領域を拡張していく必要性を感じております。経済学者の方々と「ありたい姿」をしっかり議論して備えていきたいと考えております。
地方銀行の信託ビジネス参入
- 問:
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地方銀行の信託ビジネスへの参入が相次いでいる状況かと思うが、地方銀行では、信託ビジネスのノウハウがあまり蓄積されていないところが多いと思う。こういった地方銀行に対して、信託協会として、ノウハウ・信託ビジネスに対する支援等を行っていくお考えはあるか。あるいは、どのような支援を行っていくべきとお考えか。
- 答:
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地方銀行の信託参入は従前からだいぶ進んできており、加盟会社89社のうち、メガバンク・地方銀行等が44社を占め、加盟会社の約半分という状況になってきております。信託にどのような目的で参入されるかは、地方銀行各行により異なりますが、ナレッジ・ノウハウを身につけていくにあたって、我々協会が持っていますナレッジ・情報は共有しておりますし、既に先行して加盟されている地方銀行、あるいは社員会社4社からノウハウ提供もしながら、各地域の方々、お客さまに良いサービスが提供できるように、従来から取り組んできております。今後も、時代あるいは地域によって特徴のあるサービスが求められるケースもあろうかと思いますので、信託協会としましても、加盟地方銀行の方々ともよく相談しながら、力になれることに取り組んでいきたいと考えております。
住宅ローンについて
- 問:
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日銀の政策金利引き上げに伴い、多くの金融機関が変動型住宅ローンの基準金利を引き上げているが、利払い負担の増加などに対し、今後どのように対応していくのか。
- 答:
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政策金利の引き上げに伴う住宅ローンへの影響に関する質問と理解しました。
金利がマイナスからプラスに転じている状態だが、依然として金利は低い水準であり、現時点で収入に対して過度な利払い負担が生じている環境ではないと認識しています。
長年続いたデフレから脱却していく局面でもあり、今後も利上げが進んでいくことが想定されます。既に住宅ローンをお借入れいただいているお客様だけでなく、これから新規にお借入れをされるお客様も含めて、より丁寧な対応が必要になってくると考えています。そのため、今後ますます各社の戦略に基づき、お客様の役に立つサービスを競い合う環境になっていくと見ております。
事業承継について
- 問:
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足元で、事業承継に行き詰まって事業が立ち行かなくなってしまうというケースが増えているが、こうした状況を信託協会としてどのように受け止めているか。また、今後の取組みについて伺いたい。
- 答:
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特に中小企業の方々の円滑な事業承継は、非常に大きな社会課題になっていると認識しております。早い段階から事業承継をスムーズに、かつ着実に進めていくことが大事だと思っています。信託銀行各社で、それぞれのお客さまの状況に応じてサービスを提供しておりますが、事業承継が社会課題化していることを重要視して、引き続き各社取り組んでいくべきテーマだと認識しております。環境は時を経るごとに変わりますので、中小企業あるいは地域それぞれの状況を掴みながら、各社で取り組んでいくことについて、信託協会として、後押しできることがあれば取り組んでいきたいと考えております。
株主総会の電子化について
- 問:
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日本でも株主総会へのオンラインでの参加がかなり増えてきている。議決権行使ができる出席型やバーチャルオンリー総会でみると、全体の数パーセント未満であると思うが、現在の株主総会の電子化の進捗に対する受止めと今後の見通しについて伺いたい。
- 答:
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株主総会のあり方は、時とともに変わっていくものだと思います。技術的にバーチャルを活用した総会が可能になり、各社が工夫しながら取り組んでいるのが足元の状況です。オンラインで出席して議決権行使ができるところまで取り組んでいる企業数はまだ少ないものの、自宅で映像を閲覧できるような取組みをされている企業は徐々に増えています。各企業の最高の意思決定機関である株主総会について、バーチャル方式でも滞りなく実施できることにはなっていますが、まだその確信が持てず、採用を見送っておられる企業も多々ある状況です。諸外国の状況や技術の発展など、証券代行業務を取り扱っている信託各社が普段から研究を進めることで、より良いサービスが提供されていくことを期待しています。また、株主からの期待、要望も掴みながら取り組むことが必要になります。信託協会としても、その状況を見ながら、共同して取り組めることや信託協会として後押しできることに積極的に取り組んでいきたいと考えています。
最近の為替相場の動向
- 問:
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ドル円相場の動向について伺いたい。一時140円くらいまで円高が進行したが、今また150円近辺で円安傾向にある。これについてどのようにご覧になっているか。
- 答:
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為替相場の見方は非常に難しいテーマです。市場参加者がいろいろな要素を加味し、様々な行動をする中で形成される相場です。米国の金利はゼロ金利から大きく上昇し、現在は一旦ピークアウトして下げ方向になっています。一方で、円金利はゼロ金利から脱却し、引き続き利上げが想定される局面であります。そのため、日米の金利差が縮小する場面では、どちらかというと円高方向に進みやすいというのがセオリーですが、それだけで為替相場は動くものではございません。適正水準や着地点は申し上げにくいところでありますが、現在の140円~150円の為替水準は、各事業会社が想定している為替レートの範囲に収まっているケースも比較的多くあるような印象を持っております。今後の方向性については、金利だけではなく、市場参加者の行動など様々な要因が絡み合い形成されていくものと見ております。
投資信託の基準価額一者計算
- 問:
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6月に投資信託協会が「投資信託の基準価額の受託者一者計算を行う際の考え方」を公表した。一者計算を国内で本格的に普及させるのであれば、受託者である信託業界でも一定程度対応が必要になってくるかと思うが、この考え方の受け止めと、業界内での議論、検討状況について伺いたい。
- 答:
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「投資信託の基準価額の受託者一者計算を行う際の考え方」については、投資信託協会と当協会が連携して取りまとめたものです。この内容を踏まえて、各社が業務運営の体制を整備し取り組んでいくことになります。受託会社各社が個社個別に検討し、取り組んでいくテーマであり、運用を担うアセットマネジメント会社毎にニーズも異なりますので、各社毎に取引のあるアセットマネジメント会社ともよく相談しながら、どのような形で進めていくのがサステナブルであるかという観点も含めて、今後検討が進み、現実に一者計算が提供されるところをご覧いただけるようになっていくのではないかと考えております。
アクティビストファンドの活動や企業の買収提案への対応
- 問:
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アクティビストに格付けされる企業も増加し、事業会社による買収提案なども増えている。助言を行える信託業界に今どういったことが求められているのか、また、企業側のニーズが変わってきているのかについて伺いたい。
- 答:
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株式マーケットには様々な参加者がいらっしゃいます。6月の株主総会での株主提案は昨年よりも増え、また、株主提案を行ったアセットマネジメント会社も増えています。投資家と発行体がしっかりと対話することが、資本市場にとって非常に重要なテーマであると認識しています。アクティビストと言われる方々も、それぞれが様々な方針を持って資本市場に参加されています。信託各社は、そういった市場参加者の投資家の方々と発行体の方々の対話が促進されるように色々なアプローチを提供し、具体的な事例も出てきております。発行体の方々の要望やニーズも踏まえながら、サービス提供が可能なものをブラッシュアップしているというのが足元の状況です。信託協会としても、そういった状況を見ながら後押しできる部分があれば取り組んでいきたいと思っています。
以上