会長定例記者会見(みずほ信託銀行 梅田社長)

2023年10月19日

冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、「規制改革に関する提案」をとりまとめ、内閣府規制改革推進室宛てに提出した旨の説明を行った。
また、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。

梅田会長

信託協会会長の梅田でございます。
この半年間を振り返りまして、これまでの活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。

協会長就任時に所信として、「信託機能の発揮による社会課題解決と経済成長の同時実現への貢献」「信託の次の100 年に向けた信頼の向上」の2 点を掲げております。

1つ目の「信託機能の発揮による社会課題解決と経済成長の同時実現への貢献」については、「貯蓄から投資の加速による経済成長と資産所得の好循環への取り組み」、「高齢化および少子化への取り組み」、「ESG・サステナビリティへの取り組み」の3 つのテーマに注力し、活動してまいりました。

1点目、「貯蓄から投資の加速による経済成長と資産所得の好循環への取り組み」につきましては、個人からスタートアップへの資金供給を促進し、わが国におけるスタートアップエコシステムを構築する観点から、個人が信託を通じてスタートアップに投資した場合においてもエンジェル税制の適用対象とすることを税制改正要望として掲げております。
また、金融リテラシー向上に向けた金融経済教育の推進の一環として、「FINANCIAL WELL-BEINGや新しいNISA制度」をテーマとしたセミナーを開催いたしました。
引き続き、経済成長と個人の資産形成の実現に貢献していきたいと考えております。

2点目、「高齢化および少子化への取り組み」につきましては、事業承継における信託の活用に向けて、令和6 年3月末に期限到来する事業承継税制に係る特例承継計画の提出期限を延長すること、株式の信託を利用した事業承継についても税制適用対象とすることを税制改正要望として掲げております。
また、先送りの許されない少子化への対応として有用である「結婚・子育て支援信託」および教育・人材育成を支援する「教育資金贈与信託」について、非課税制度の恒久化を税制改正要望として掲げるとともに、両信託の認知度向上と利用増加を図るべく、周知活動に注力しております。
引き続き、包摂的な経済社会の発展に貢献していきたいと考えております。

3点目、「ESG・サステナビリティへの取り組み」につきましては、民間公益の活性化に向けて、公益信託制度の改正にあたり、公益信託が公益法人に比して劣後することのないよう所要の税制措置を講じることを税制改正要望として掲げております。
また、企業のESG・サステナビリティへの取り組みを促進する観点から、役員報酬制度において損金算入が認められる業績連動給与の算定指標に、ESG 成果指標等の非財務指標を追加することを要望としております。
信託業界としては、責任ある機関投資家としての立場、また企業の抱える様々な課題解決を支援する立場から、ESG やサステナビリティに関する取り組みに貢献していきたいと考えております。

続いて所信2つ目の「信託の次の100 年に向けた信頼の向上」につきましては、社会・経済などの環境の変化を先取りし、高い専門性と信託の特性である柔軟性などを活かして、お客さまの安心・安全のニーズに応えていきたいと考えております。
また、信託の認知度向上に向け、テレビCM やYouTubeなどを活用した積極的な情報発信も実施しており、信託の次の100 年に向けた信託に対する信頼向上に努めていきたいと思います。

引き続き、信託協会の活動へのご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます。


以下、質疑応答

信託協会の現在の課題

問:

信託協会の活動についてお話しいただいたが、現在の課題などについて教えていただきたい。

答:

繰り返しにはなりますが、所信の3点について継続的に取り組んでいきます。下期の取り組みにつきましては、本日公表させていただいた規制改革要望に加えて、令和6年度の税制改正要望に掲げた事項の実現に注力していきます。先程も一部触れさせていただきましたが、例えば、民間公益の活性化に資する公益信託に係る所要の税制措置の確保、中小企業の事業継続に資する信託の事業承継税制の適用、スタートアップへの資金供給促進に資する信託を活用した投資のエンジェル税制の適用等に向けて、引き続き活動していきたいと思います。これらは、新しい資本主義の加速に向けて大いに貢献できる要望であると考えております。
また、現在開催されている金融審議会等において、例えば「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」の中では、実質株主の透明性確保の論点が示されており、非常に重要なテーマだと捉えています。また、「資産運用に関するタスクフォース」の中では、資産運用業、アセットオーナーなどの論点について議論されており、資産運用立国の実現に向けて、信託協会として積極的に提言を行いたいと思っております。
最後に、まだまだ信託の認知度は向上させなければならないと思っております。もっと広く知ってもらうために、色々な広報活動にも力を入れていますが、更にできることはないか一層工夫を凝らしていきたいと考えております。

資産運用立国への取り組み

問:

政府が掲げている資産運用立国について、今後、業界としてどのように関わっていくか、具体的に教えていただきたい。

答:

資産運用立国に向けて、信託協会としては投資信託の受託業務や、年金業務等を通じて、我が国の市場の魅力の向上に貢献していきたいと思います。
具体的に申し上げると、資産運用会社の新規参入障壁の低下に向けた取り組みが進んでいますが、投資信託における一者計算の問題については、投資信託協会とも協働して実務レベルの検討を始めております。実務上のフィージビリティをしっかり確保していくなど、実現と普及に向けた取り組みを進めていきたいと思います。
年金業務に関して、もう一つの大きなテーマは、アセットオーナーの資産運用の高度化です。年金業務を通じて顧客本位の業務運営の推進を実施することにより、我々のお客さまにあたる企業年金の運用高度化についても貢献していきたいと考えています。
最後に金融リテラシーの向上についてです。設立が予定されている「金融経済教育推進機構」の活動において、信託協会としては幅広い世代やライフイベントを支援する立場から、年金や個人の資産承継等の分野を中心に貢献していきたいと思っております。

全銀ネットのシステムトラブルについて

問:

全銀ネットで起きたシステムトラブルについて、信託協会の加盟会社にも影響があったと思うので、金融機関の代表として現状でどのように受け止めているか、教えていただきたい。

答:

全銀システムの障害について、私自身、銀行業界に身を置くものとして、一言コメントを申し上げます。
今回、障害によって多くのお客さまに多大なるご迷惑、ご心配をおかけしたことにつきましては、深くお詫びを申し上げます。銀行は社会インフラとして重要な機能を担っており、お客さまが安心してご利用いただけるようにする必要があります。今後は、重大な影響を及ぼすシステム障害をいかに未然に防いでいくか、万が一発生してしまった際にいかに速やかに立て直すか、という2点を改めて確保しなければいけないと思います。今後、全銀ネットから原因分析、再発防止に向けた取り組みなどが順次発表されていくと思います。私自身、全銀ネットの理事でもあり、しっかりとフォローをしてまいりたいと考えております。

信託未来プロジェクトについて

問:

信託未来プロジェクトのこれまでの進捗と今後に向けての期待感について教えていただきたい。

答:

信託未来プロジェクトについては、信託協会は協賛という立場をとらせていただいており、社員会社4社で取り組んでいます。
大きな取り組みは2点あります。一つ目は社会課題の解決に向けたタスクフォースに4社協働で取り組むことです。具体的には、少子高齢化、金融教育、ESG、人的資本の4つのテーマを掲げております。それぞれプロジェクトを組んで、具体的なアクションについて外部有識者にも入っていただき、議論を進めています。
例えば、金融教育については、信託とESGに着目した学生向けの動画作成、人的資本については、人的資本に関する企業の実態調査に取り組んでおります。
二つ目の取り組みとしては、信託について広範に知ってもらうことを目的として、信託未来プロジェクトのオリジナル動画コンテンツを随時作成し、発信しています。社員会社4社の若手職員を中心に、今までとは異なるアイディアでアプローチをして、より分かりやすく、幅広い世代に理解してもらえるように、YouTubeでオリジナルコンテンツ動画を配信しています。まだまだ、登録者数、視聴回数も少ない状況ですので、皆さまも是非一度ご覧頂ければと思います。加えて、専用ホームページも設けているので、積極的に活用して浸透を図っていきたいと考えております。
なお、独自に全国を対象にアンケート調査を実施したところ、信託銀行の認知度は28.6%、前年比5.7%増加という結果となりました。まだまだ継続していかなければいけませんが、足元としては効果が出始めていると思っております。

信託業界のDXへの取り組みについて

問:

信託業界は現在でもデジタル化に十分取り組んでいると思うが、今後IT、DXの観点から見て、どういった分野に注力していくのか。また、具体的な取り組みについて教えていただきたい。 

答:

信託業界のデジタル関連の取り組みについては、大きく二つポイントがあります。一つ目はいずれも規制緩和に関するところで、2022年10月に信託銀行による暗号資産の信託受託が内閣府令の改正で可能になったことがあります。また、2023年6月に資金決済法等の改正により、信託を活用したステーブル・コインの制度整備がなされました。これらの環境整備を背景に、信託各社の中で、実際のマーケットニーズ等を踏まえながら、取り組みを進めていますが、個社の動きも含めて申し上げますと、昨今、特にセキュリティ・トークンを使った投資商品が大きく伸展していると思います。個社においても、これまで不動産のセキュリティ・トークンに複数回、受益証券発行信託の器を使って取り組んでいます。直近では都内のレジデンシャルを活用した国内最大規模の不動産セキュリティ・トークンを発行していますし、販売においても投資家の力強さを感じています。
まずは投資の受け皿や投資の幅を広げていき、今後は不動産のみならず、プライベートエクイティやインフラなどのアセットも検討を進めており、このあたりをきっかけとして、信託を活用したDXを進めていきたいと考えております。

規制改革要望について

問:

会見に先立ち配付されたニュースリリース「規制改革に関する提案を提出」で、9項目の提案を提出したとのことであるが、特にポイントとなるのはどのあたりか、教えていただきたい。

答:

規制改革の提案については従前から掲げているものも多くありますが、実現に向けては等しく力を入れています。本日提出した提案項目のうち、提案1から提案4までは、金融関連の継続事項で、提案5から提案9は年金関係の新規提案事項となっていますが、お客さまからの声が大きいものとして、例えば提案4の「相続手続きのデジタル化」については、我々信託銀行として、個人のお客さまの資産承継や遺言を取り扱っている中で、相続に係る労力や煩雑さの解消について、お客さまからご要望を受けておりますので、実現に向けて力を入れていきたいと思います。

問:

今回、新規提案が5項目あるが、それぞれ大事だと思うが、この中で、特にこの項目に力をいれるということはあるか、教えていただきたい。

答:

(川嶋専務理事)
先ほど協会長からもありましたように、我々にとっては全て重要な項目であり、全ての項目の実現に向けて邁進したいということでございます。

長期金利の上昇について

問:

足下の長期金利について、今日の債券市場でも長期金利が0.84%と10年ぶりの水準まで上昇したが、この水準についてこれが適切かどうかということと、この上昇の背景に何があると考えているのか、教えていただきたい。

答:

金利政策については日本銀行の専管事項であり、個人的な見解として申し上げます。色々な見方はありますが、長期金利上昇については、日米の金利差に伴う為替への影響や、日本国内における今後のインフレにかかる見通しが課題認識されています。
金融機関に身を置くものとしては、金融環境の激しい変化は好ましくないと思います。特にこの2年ほどは、為替などの金融環境において、世界的にボラティリティが大きくなっています。今後様々な金融政策が講じられることになるかと思いますが、足元では地政学的にも色々なことが起きている中、急激な変化を極力避けるべく、また、日本銀行における金融政策においても、マーケットおよび市場参加者とのコミュニケーションをとっていただきたいと思います。
足下の長期金利は、0.8%くらいまで上がっています。これは当然、株式や不動産価格に影響しうるものでありますが、足元では、そこまで資産価格に大きくネガティブな影響を及ぼすことは見られておりません。また、不動産に関して言うと、世界の主要マーケットの中で比較すると、まだまだ長期金利対比、投資リターンのスプレッドが十分に取れている環境でもあるので、今の金利環境が不動産投資に関して強くネガティブに作用しているということはないと思います。
一方で、先程インフレについて少し触れましたが、今後しっかり見ていくべきは賃金上昇のスピードだと思います。個社のお客さまとお話する中でも、人材不足は蔓延しており、これから昨年に引き続き、賃上げに向けての動きが出てくるものと思います。春闘に向けた動きが、この秋口から来年度に向けて進んでいくので、情勢をしっかりと見極めながら、金融当局においては金利政策を実施していただきたいと思います。

相続時精算課税制度、暦年贈与制度の改正等の影響について

問:

来年度から、相続時精算課税制度、暦年贈与制度が改正されるかと思うが、印象としては、相続時精算課税制度の使い勝手がよくなると思うが、例えば、信託銀行の生前贈与に係る業務や相続関連業務にどのような影響が出るとお考えか、教えていただきたい。

答:

相続関連税制の変更や緩和については、我々の相続関連業務、承継業務に大きく影響すると思います。また、それ以上に、コロナ禍の経験などを経て、特に高年齢層における資産承継や企業オーナーにおける事業承継の考え方が大きく変化してきていると思います。
これまで以上に万が一の事態に備えてしっかりと用意していくという意識が強まってきています。税制などは影響がありますが、それ以上に、特に事業承継については、昨今のコーポレートガバナンスの強化というテーマの中でも、企業オーナーにおける所有と経営の分離も大きなテーマとなっています。特に、同族会社におけるファミリーの経営への関与の仕方、それをいかに後世に承継していくかという中で、信託銀行の出番は非常に多くなってきています。
先ほど、税制改正要望について少し触れましたが、事業承継に係る信託は、親から子などの単純な親族への承継のみならず、二代先に向けての承継もしくは親族外の承継などを信託契約の中に織り込んでいくなど、柔軟な取り扱いができることがアピールポイントです。先ほど申し上げた、コロナ禍を経て企業オーナーや、土地を中心とした資産をお持ちの方々の意識が大きく変わってきており、我々にとっても非常に大きな社会貢献のチャンス、ビジネスチャンスであると思います。

信託銀行員の着服事案について

問:

2点目であるが、いくつかの大手の信託銀行では、行員の着服事案が相次いでいるかと思う。業務の特性上、長期間にわたるとか、金額が大きいということがあると思うが、このような事案についてどう思っているか、教えていただきたい。

答:

協会長としてではなく、個社としてお話します。既にプレスリリースもしていますが、弊社の支店において、お客さまのお金を着服するという、あってはならないことが発生いたしました。既に被害に遭われたお客さまへの対応は実施しており、現在再発防止に注力しております。特に、リテールの分野については、高齢のお客さまが多く、良い意味で、深くお付き合いしていかないと、それぞれの複雑なニーズに柔軟にお応えできません。そういう中で、組織として、牽制をきかせて、社員のコンプライアンスやモラルの醸成をしっかりやっていきます。これは当然のことですが、これを改めて原点に立ち返って実施しております。加えて、信託の持つ柔軟性の裏返しになりますが、信託銀行は少量多品種、色々なオーダーメイドの商品があります。時代の流れとともに、段々廃れていくものもあり、そのような商品・サービスの担い手は少なくなります。こうした商品・サービスの見直しについても積極的に取り組んでいくことが、このような事案を未然に防ぐ一つの手当になると思っています。

日本カストディ銀行の不祥事事案について

問:

個別の話で恐縮であるが、信託協会の加盟会社でもあるので、日本カストディ銀行の不正問題について教えていただきたい。元々、みずほ信託銀行系の資産管理信託銀行が母体行でもあり、みずほ信託銀行からも人が出向している。みずほフィナンシャルグループは主要株主でもあり、また、みずほ信託銀行は日本カストディ銀行の委託者でもあるということを考えると、非常に重要なステークホルダーだと思うが、日本カストディ銀行はほとんど何も公表していない。この問題について、みずほ信託銀行の責任を梅田協会長はどのようにお考えか、教えていただきたい。

答:

まず、日本カストディ銀行に係る今回の事案について、個別の事案ですので、詳細にコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、金融機関として、お客さまやマーケットの信頼を確保することが、大前提となっている立場でありますので、そこを揺るがしかねない大きな事案として、非常に重く受け止めています。その中で、個社の話になりますが、我々は日本カストディ銀行に対して、原受託者として、委託をしている立場でありますので、当然、個別の取引の中で、お客さまに対する説明責任があります。日本カストディ銀行ともコミュニケーションをとり、再発防止に向けた取り組み、もしくはお客さまに対する説明など、しっかりと対応していく所存です。

問:

日本カストディ銀行は、何も発表していない。第三者委員会を作るとか、元取締役は誰とか、具体的にどんな事案であったかという要約すら発表していない。言わずもがなであるが、日本カストディ銀行が預かっている有価証券は、裏を返せば、年金基金であったり、信託であったり、国民の有価証券を預かっている。決済ができないような事態に万が一なった場合、今年6月にも国債フェイルを起こしているが、日本の市場が機能不全に陥るような重大な会社だと思う。それにもかかわらず、国民に対して何も説明していないことについて、梅田協会長はどのように考えているか、教えていただきたい。

答:

日本カストディ銀行におけるこれまでの対応状況、今後について、私がここで申し上げるは差し控えます。ただ、ご指摘のとおり、個社としては原受託者として、お預かりしている有価証券などを日本カストディ銀行に再信託しております。今後、適切なオペレーションができるか否か、これは我々に責任がありますので、しっかり見ていくということです。グループ会社では経営管理も担っていますが、私としては原受託者としての立場で申し上げた次第です。

不動産マーケットについて

問:

不動産マーケットについて伺いたいが、中国の恒大集団や、カントリーガーデンなどで、経営危機の話が出ているが、それが国内の不動産マーケットに与える影響をどのように見ているか、教えていただきたい。

答:

今、中国で起きている不動産を中心とした信用不安については、しっかりと注視していかないといけないと思っています。中国経済の停滞が、日本を含めた世界経済にどう影響するかという枠組みの中で、見ていく話だと思っています。加えて、不動産にフォーカスした時に、日本を含めた諸外国の不動産マーケットへの影響は、基本的には金融不安を伴うものか否かが、一つのトリガーとなっていくと思っています。ただ、現状においては、中国国内の不動産ファイナンスに関して、これから色々なやり方で資金回収を図っていくわけですが、これが転じて、国際的に大きく波及する危険性は感じておりません。
日本の不動産マーケットにおいても、海外の投資家が一定以上を担っているところがあります。特に注目すべきは、いわゆるグローバルファンドと呼ばれる、全世界で一定のポートフォリオを持つファンドの動きだと思います。ファンドの足下の動きで見れば、例えば、アメリカにおいてオフィスの入居率低下により価格が下落して、REITの価格に影響している事象も発生していますが、ファンドがこれからファンドレイジングして、アジアのアロケーションを決めていくに際し、米中の対立の問題もありますが、地政学リスクなどを考えると、今までと同じように対中国への投資アロケーションを実施していくことはかなり難しくなってきています。
他方、日本の不動産マーケットについては、相対的にポジティブになってきており、例えば、欧米と比べると、日本のオフィスマーケットは、在宅勤務は一定数実施されているものの、リバウンド傾向にあるなど、相対的に安定的な投資対象として、投資資金のアロケーションを日本の不動産へ寄せていく動きなども見られていますので、現状においてはネガティブな要因はあまりないと思います。むしろ、日本のオフィスマーケットや日本の不動産が投資対象として、相対的に選好されていく動きが出ていると思います。

スタートアップへの投融資に対する役割について

問:

スタートアップに対する投融資の動きが信託銀行の間では顕在化しているが、そうした動きに対する役割について、教えていただきたい。

答:

信託協会としての取り組みについては、冒頭で少し触れましたが、信託を通じた投資のエンジェル税制適用を主要要望の一つとして掲げています。信託というキーワードで申し上げますと、今申し上げたようなスタートアップ企業に対する投資スキームの中で、信託を活用して、投資資金をスタートアップ企業につなげていく機能が大きいと思います。一方、金融機関としての取り組みとしては、各社様々ですが、個社について申し上げますと、例えば、証券代行業務において、昨今のコーポレートガバナンス強化の動き、アクティビストの活発化の動き、もしくは政策保有株式解消の動きの中で、個人の株主をいかに増やすか、いかに個人の株主へのサービス向上に取り組むのかというのは、大きなテーマになってきています。
また、個社の話にはなりますが、スタートアップ企業に関する一つの動きとして、スタートアップ企業と連携して、AIを駆使し株主総会における想定問答の作成を支援するサービスの提供や投資家分析にAIを利用するなど、スタートアップ企業のITのノウハウを活用した取り組みを進めています。また、このようなスタートアップ企業の提供するサービスを、グループの銀行のお取引先にも拡充することで、お取引先のビジネス展望を大きく広げていく取り組みも実施しています。アプローチは一様ではありませんが、こうした信託らしさは、さらに広げていきたいと思います。

以上