会長就任記者会見(みずほ信託銀行 梅田社長)

2023年04月04日

冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長にみずほ信託銀行の梅田圭取締役社長が互選により就任したこと、また、新副会長に三井住友トラスト・ホールディングスの高倉取締役執行役社長が、新一般委員長にみずほ信託銀行の田中常務取締役がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第98回信託大会を4月12日(水)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非ご来場またはオンラインにてご参加いただきたい旨の案内および令和5年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。

会長就任の抱負

このたび、信託協会会長に就任いたしました梅田でございます。よろしくお願いいたします。
信託協会会長就任にあたりまして、抱負を申し述べたいと思います。

所信の第一として申し上げたいのは、「信託機能の発揮により社会課題解決と経済成長の同時実現に貢献」して参りたいということです。具体的な取り組みとして3点申し上げます。

1点目は、「貯蓄から投資の加速による経済成長と資産所得の好循環への取り組み」です。信託は、財産を安全に保管・管理し、忠実・公正に業務を遂行することで、安心して投資・運用できる社会に貢献して参りました。投資信託を含む資産管理型信託の受託残高は昨年9月時点で約1,192兆円まで拡大しております。今後も財産管理機能を発揮し、金融経済教育にも取り組んでいくことで、貯蓄から投資の流れを後押しして参ります。また、スタートアップ等への円滑な資金供給を促すための新しい信託制度の創設への提言など、経済成長と個人の資産形成の実現に貢献していきたいと考えております。

2点目は、「高齢化および少子化への取り組み」です。人生100年時代における安心を提供するための資産管理・資産承継の商品・サービスの提供に引き続き取り組んで参ります。事業承継に係る、コンサルティングや信託商品の提供など、円滑な事業の引継ぎも積極的に支援し、経済成長につなげて参ります。また、先送りの許されない少子化への対応として、世代間の資産移転を促進し、結婚・出産・子育てを支援する信託や教育・人材育成を支援する信託の、より一層の普及に尽力することで、包摂的な経済社会の発展に貢献して参ります。

3点目は、「ESG・サステナビリティへの取り組み」です。非財務価値の向上を重視したサステナビリティ経営の取り組みにおいて、人的資本への投資は非常に重要な要素であります。信託業界においても、機関投資家としての投資先企業とのエンゲージメント、年金や株式報酬関連などの信託商品・サービスの提供、ガバナンス等に係るコンサルティング、確定拠出年金、いわゆるDC受託企業への投資教育推進などで、企業の取り組みを促していくとともに、非財務情報開示の充実に向けた支援なども行って参ります。また、フィランソロフィーの促進に向けて、公益信託の公益認定制度一元化が検討されており、民間の資金と信託の機能を活用した公益活動の活性化についても貢献して参ります。

所信の第二として申し上げたいのは、「信託の次の100年に向けた信頼の向上」に努めて参りたいということです。
今後、デジタルアセット市場の拡大やweb3の環境整備による分散型自律組織、いわゆるDAOの活用など新たなテクノロジーの進化による社会構造の変化が想定されますが、こうした変化を先取りした上で、高い専門性と豊かな発想を持ち、信託の特性である柔軟性などを活かして、様々なステークホルダーの想いをつなぎ、安心・安全で持続的な未来を紡ぐという信託業界の取り組みはこれまでと変わるものではありません。
また、信託が社会の発展に貢献していることをあらゆる世代に認識してもらうために、信託について、より積極的に情報発信していくことも必要であると考えております。こうした取り組みにより、信託の次の100年に向けて、信託に対する信頼向上に努めて参りたいと思います。

以上、信託協会会長としての抱負を述べさせていただきました。
引き続き信託協会の活動につきまして、ご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます。

以下、質疑応答

今年度の重点取り組み事項

問:

「貯蓄から投資」というキーワードを用いて本年の抱負をお話しいただいたが、改めて、今年度重点的に取り組みたい事項を教えていただきたい。

答:

先ほど、具体的な取り組みとして3点申し上げさせていただきましたが、まずは現状認識からお話しさせていただきます。
信託財産総額は、本年1月末時点で約1,500兆円まで積みあがっており、コロナ禍と重なった直近3年間を見ても残高は伸びています。まさに、「貯蓄から投資」という中で、例えば、投資信託等の資産管理型信託の増加や、信託協会加盟各社で注力している少子高齢化に向けた新たな信託商品の普及等が残高の伸長に繋がっているものと認識しております。
少子高齢化という非常に大きな社会課題に向けて、信託が果たすべき役割は、大きいと考えております。重点的に取り組みたい事項の一つは、教育資金贈与信託、結婚・子育て支援信託の一層の普及に注力していくことであります。令和5年度の税制改正要望において、教育資金贈与信託、結婚・子育て支援信託における一括贈与に関する非課税の取扱いが期限延長を実現しましたので、一層の利用促進に向けて尽力していきたいと考えております。
また、高齢化社会への対応として、少子化対策を含めた承継商品の推進、事業承継に係るコンサルティングや信託サービスの普及に向けて、注力してまいりたいと考えております。このような社会課題の解決に向けて貢献することにより、信託が社会で果たしていく役割を一層増やしていくとともに、しっかりと社会の皆さまからの認知度を高めていきたいと考えております。

少子高齢化への具体的な取り組み

問:

少子高齢化への具体的な取り組みについて教えていただきたい。結婚・子育て支援信託、教育資金贈与信託は具体的にはどのような信託商品なのか教えていただきたい。

答:

まず、教育資金贈与信託、結婚・子育て支援信託については、これまで、信託協会加盟各社において普及を進めています。また、令和5年度の税制改正要望で、この2つの信託における一括贈与に関する非課税措置の期間延長が実現しています。
祖父母から親、孫へ資産を承継していくわけですが、これによって、若い世代が安心して、結婚や子育てなど、将来の人生設計に向かっていくことや、孫の教育資金を祖父母からしっかりと承継して、将来の人生設計を描くことができます。このような若い世代のライフプランにも資する商品として、信託協会加盟各社で販売を継続していますが、まだまだ全てのニーズにお応えしきれていないと考えております。
販売件数は着実に増加しており、教育資金贈与信託の昨年9月末の時点での累計設定額は約1兆9,000億円となっています。しかしながら、税制上の優遇内容など、まだまだ社会の皆さまに知られていないところもたくさんあると認識しておりますので、どのような媒体を使ってアピールしていくかということも含めて、今年度はしっかりと普及活動に取り組んでいきたいと考えております。

デジタル化の進展に伴う店舗の在り方

問:

デジタル取引への移行が進む中で、信託銀行の店舗の在り方についてどのようにお考えか教えていただきたい。

答:

信託協会加盟各社によって、方針は異なるかと思っておりますが、まずは、個社も含めた大手信託銀行における店舗展開について、少し述べさせていただきます。
ご存知のとおり、信託銀行の支店網は決して十分ではありません。大まかに申し上げますと、大都市圏や首都圏においても人口集積地を中心に店舗展開をしています。先ほど申し上げた少子高齢化に向けた信託商品などを、どのように普及していくかについては、既存の店舗に依拠するだけでは、なかなか難しいと認識しております。
対応策の一つは、デジタル化に向けた取り組みです。個社の取り組みとしても、例えば、遺産整理の手続き等をwebで行える商品をご提供しています。また、その他の対応策として、信託協会にも多数加盟している地域金融機関が信託業の兼営認可を取得し自社で信託商品を提供する、信託銀行との信託代理店契約を通じて信託銀行の信託商品を各地方のお客さまに届ける、などをしています。
信託銀行の立場からすると、社会の皆さまのニーズにお応えできる商品を開発し、その販売を地域金融機関に行っていただくなど、地域金融機関との連携等も通じて、信託を一層広めていきたいと思っております。

デジタル化の進展に伴う新たな商品展開

問:

法律の改正によって、信託対象として新しいものも範囲に入ってきたり、信託財産のデジタル化、DX化が進む中で、どのようなものが、現状、広がってきているか。また今後、このようなものもあるというお考えがありましたら、教えていただきたい。

答:

一つ例を申し上げますと、信託協会加盟各社において、ブロックチェーン等を活用した新しい商品を展開しています。特に足もとでは、例えば不動産やインフラなどへの投資をいわゆるセキュリティ・トークンの形を通じて、特に個人投資家の投資マネーを形成していくということを実施しています。
この1年間、信託協会加盟各社が商品を提供していますが、いずれも順調に投資家の層が広がってきていると認識しております。まさに、これから「貯蓄から投資」の循環をどんどん広げていくためには、こうした新たな投資セクターなど、信託の特色を活かしながら、新たな投資対象に対して、新しい投資機会の提供を行っていくことは、非常に重要だと考えており、前向きに取り組んでいます。
また、個社の話にはなりますが、分散型自律組織、いわゆるDAOのような形の新しい形態が広がっていくことが十分に予想される為、取り組みを開始しています。これについては、まだまだ研究段階ではありますが、信託の柔軟性や、もしくは複数の受益者に対して、信託が忠実義務、善管注意義務を負い、信託の目的を果たしていく構造などは、非常に親和性の高いものなので、しっかりと進めていきたいと思っております。

海外の金融市場情勢

問:

シリコンバレーバンクの破綻やクレディ・スイスの経営不安など、欧米金融危機に伴う市場の不透明感が非常に強まっているが、信託業界への影響や、今後、懸念される点について教えていただきたい。

答:

個社としての見解になりますが、一部の報道でも伝わっているように、今回の米国シリコンバレーバンクの破綻をきっかけとした、特に中堅規模の金融機関の破綻については、かなり個別性の強いものではないかと考えております。脆弱なALMの管理や預金者の属性が特徴的であったことなど、日本の銀行でいうところの粘着性の高い預金構造ではなかったということは一つ言えると思っております。
一方で、リーマンショックの反省を振り返りますと、グローバルな金融の繋がりによって破綻の連鎖が始まっていくというリスクも、想定しておく必要があると感じております。クレディ・スイスの事案も含めて、各々、かなり個別性の強いものだと思っており、本邦の金融機関はALMの管理や預金者対応も含めて、万全な態勢を構築できているものと認識しておりますが、今後、金融の連鎖をきっかけとした新たな事象が出てくるかについて、鋭敏にアンテナを広げていく必要があると捉えており、引き続き、注視していきたいと考えております。

新日本銀行総裁への期待

問:

4月9日に日本銀行総裁が、10年ぶりに黒田東彦氏から植田和男氏に交代する。新総裁の植田氏に関する受け止めと、どのような政策運営を期待・要望するかを伺いたい。

答:

日本銀行の金融政策に関して、日本銀行の専管事項であり、個人的な見解として申し上げます。
過去10年間の日本銀行の金融政策は、一定の成果を上げていただき、株式や不動産等の資産価格を含めて、下支えには効果があったものと考えております。
また、物価についても、この10年間一定の安定感をもって、日本経済を支えた一因として、日本銀行の金融政策があったものと認識しております。
ただ、一方で、長期金利のイールドにおいては市場機能が低下しており、マーケット機能が発揮できていない情勢でもあります。また、世界の金融情勢自体が、昨年来大きく変動している中で、日本の中央銀行としてどのような政策を講じていくかについては、かなり複合的な要素の中で判断を要するところだと思っております。
日本銀行には、市場参加者とのコミュニケーションをしっかりとっていただきたいと考えております。金融政策の激変は、我々金融機関としても望むところではありませんので、これまでの政策運営を踏襲しながら、少しずつ先ほど申し上げた課題についてのイグジットを図っていくことを期待するものであります。

欧米の金融不安が不動産投資や不動産事業に及ぼす影響

問:

今の質問に少し関連するが、信託銀行では事業の柱の一つとして、不動産業務があり、そのことについて伺いたい。欧米の金融不安が、不動産投資や不動産事業に及ぼす影響についてどのようにお考えか。国内、国外で違いがあると思うがお聞かせいただきたい。

答:

まず、一般論を申し上げると、長期金利の上昇に伴い、不動産の資産価値が低下していきます。不動産投資マーケットもグローバルになってきているので、日本のみならず特に大手のグローバル不動産ファンド等々を中心に、この先の金利の動きについてはかなりナーバスになっているのが現状だと思っております。
ただ、一方、日本の不動産投資市場も、海外のファンドや機関投資家の存在感が増しており、グローバリゼーションが進んでいます。こうした中、足もとで見えているのは、相対的な世界の不動産投資マーケットの中で、日本においては、金利の動向やオフィスマーケットにおける労働者の戻り、もしくは不動産投資を支えるデットマーケットの安定性など、このあたりは相対的に優位性を維持していると捉えております。
まだまだ、今後の金融情勢次第で予断を許しませんが、世界の不動産投資マーケットの中で、相対的に日本のマーケットは優位性をもって見られており、依然として投資を続けていく大手の投資家が多くいるので、このあたりを注目していきながら、マーケット関係者として、引き続き状況を見守ってまいりたいと思っております。

信託の認知度向上に向けた具体的な取り組み

問:

前の話に戻るが、信託銀行や信託協会として、認知度というところが非常に重要であるという話があった。認知度向上に向けて具体的な取り組みがあったら伺いたい。

答:

試行錯誤しながらではあるが、これまで税制上の優遇措置の内容の発信、信託商品に係るリーフレットの作成など、様々な取り組みを行ってきております。
今後、これまで以上に大きな効果を目指し、あくまでも一つの取り組みの例としてですが、現在、信託協会の協賛のもとで信託4社協働の「信託未来プロジェクト」を実施しています。そこではテーマを4つ掲げて、信託4社が共同で研究し、社会への普及を進めていくことに取り組んでいます。
具体的には、少子高齢化、金融知識の浸透、ESG、人的資本経営といったテーマを掲げ、信託4社で議論しています。これまでと違う取り組みとしては、YouTubeの公式チャンネルを作り、信託銀行の若手社員を中心として、取り組みをライトな感じで発信するといったところから始めています。まだまだ、十分ではありませんが、このような新たな試みを含めて一層広げていきたいと思っております。

株主総会運営対応

問:

まもなく定時株主総会シーズンであるが、信託銀行としても株主総会に係る業務があると思う。株主提案も近年増えており、また東証のPBR向上の要請もある中で活発な総会が期待されているが、特にどのようなサービスを提供できるか、見通しも含めて教えていただきたい。

答:

信託銀行の重要な役回りとして、株主名簿の管理業務、いわゆる証券代行業務を行っています。まず、コロナ禍の3年間を振り返りますと、株主総会をどのように実施していくのかということが非常に特殊な状況であり、いわゆるバーチャル総会の普及や株主総会資料の電子提供制度の推進などの対応をしてまいりました。
加えて、発行体企業と株主との対話に向けてのコンサルティングについても、この1、2年でかなりマーケットのニーズが広がってきており、個社としても力を入れています。
株主に対する発行体企業からの情報発信や開示、平時からのエンゲージメントを含めたコミュニケーションのあり方など、一部敵対的な局面における買収防衛等々も含めた事例もありますが、まずは、発行体企業における株主とのコミュニケーションをいかに活性化していくかということです。
直近では東京証券取引所が「企業価値向上表彰」を実施している中で、PBR1倍割れの企業に対して、ROEの向上から、株価の向上策を含めて資産効率を高めていくなどのアドバイザリーについては、発行体企業からのニーズが増えており、信託業界として引き続き応えていきたいと思っております。

以上