会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 長島社長)
2023年03月16日
冒頭、川嶋専務理事より、ニュースリリース「信託経済研究会 報告書の公表について」および同報告書の配付について報告を行った。
長島会長
信託協会会長の長島でございます。
昨年4月の会長就任から、まもなく1年が経過致します。この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心より御礼申し上げます。
私は、会長就任にあたりまして、所信として、「信託機能を一層活用した社会・経済課題解決への貢献」と「信託に対する信頼の向上」の2つを掲げました。この所信に沿いまして、1年間の活動をご報告させていただきます。
1つ目の「信託機能を一層活用した社会・経済課題解決への貢献」については、デジタル化への取り組み、ESG課題への取り組み、家計の資産形成・管理・次世代への承継に関する取り組みの3つのテーマに注力し、活動してまいりました。
1点目の「デジタル化への取り組み」については、主に規制改革や税制改正の要望活動を通じて、信託機能の利用促進や制度の充実を図るという観点から各種の提言を行いました。今年度の主な成果として、信託銀行が暗号資産を信託受託することについて、規制改革を提案し、認められることとなりました。また、改正資金決済法における信託型ステーブルコインの制度整備に向けた提言なども実施しております。暗号資産、ステーブルコインといった分野においても信託機能が利用されることで、社会のデジタル化に貢献できると考えております。
2点目の「ESG課題への取り組み」については、今年度、経団連さんと協力して、経団連加盟企業に対して、ESGに関するセミナーを開催いたしました。こちらは、以前、協会で経団連さんにも協力いただいて、伊藤邦雄(いとうくにお)先生を座長に迎え取りまとめたESGに関する報告書をテーマにしたものです。このほか、サステナブルファイナンスや女性活躍・男女共同参画推進の分野に関し、金融庁・内閣府から解説頂くセミナーを開催するなど、ESG課題解決の取り組みが進むよう活動を行ってまいりました。
3点目の「家計の資産形成・管理・次世代への承継に関する取り組み」については、教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託に関する贈与税の非課税措置について、制度の恒久化等を要望し、その結果、延長措置をいただけることとなりました。教育機会の充実や世代間の資産移転を通じた消費の活性化に資するものであり、依然としてその社会的意義は大きいと認識しております。また、若杉敬明(わかすぎたかあき)先生を座長、吉野直行(よしのなおゆき)先生を幹事とする当協会内の経済研究会では、「貯蓄から資産形成へ」の流れを更に加速させるには何が必要かといった観点から、「家計の資産形成促進と信託」を年度テーマに設定し議論を行い、研究会の内容を取りまとめた報告書を本日公表いたしました。
続いて所信2つ目の「信託に対する信頼の向上」につきましては、加盟各社が受託者として社会からの信頼を維持・確保することを目的に制定された「倫理綱領」について、人権尊重や多様な人材の活躍を促進するための環境整備の観点で改定をおこなったほか、信託法・信託業法制定から100周年を迎えたことを記念し、信託法などに関する有識者をお招きし、シンポジウムを開催いたしました。このシンポジウムで100年の歴史を振り返るとともに、今後の展望について講演やパネルディスカッションを実施しておりますが、社会の変化に伴い、解決すべき社会課題も多様化している中で、信託は多様なニーズに応えることができる柔軟な制度であることを改めて認識いたしました。信託機能を活用し、社会課題の解決に貢献することを通じて、100年にわたる長い歴史の中で培われてきた信託に対する信頼の更なる向上に努めてまいりたいと考えております。
以上がこの1年間の簡単な振り返りとなります。
なお、これまで申し上げた取り組みや成果は、当協会の活動に関するすべての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。
最後に、会長会社としての務めは、この4月にみずほ信託銀行さんに引き継ぐこととなります。今後とも信託協会の活動に対し、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
以下、質疑応答
デジタルアセット事業の取り組み意義
- 問:
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昨年12月に、三菱UFJ信託、三井住友信託、みずほ信託銀行などが出資して、デジタルアセットの発行・管理基盤である新会社「Progmat」を設立するとの発表があった。信託業界として特徴のある取り組みだと思うが、こうしたデジタルアセット事業の取り組み意義を教えていただきたい。
- 答:
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新会社「Progmat」設立には、信託協会が直接関与しているわけではないのですが、信託業界の特徴的な取り組みでもあり、三菱UFJ信託銀行の社長として、ご回答させていただきます。
当社では、ブロックチェーンを活用したプラットフォーム事業として、不動産を裏付資産としたセキュリティトークン、デジタル証券の発行を2021年にスタートしており、徐々にその発行規模を増やしているという状況です。今後はデジタルアセット市場を拡大させるために、中立的で共同体的な性格を持ったプラットフォームにすれば、より広がりがあるのではないかということで、パートナー企業の皆様に参加していただきました。
このようにして、皆様が使えるナショナルインフラのような基盤を提供することによって、資金調達者である企業と、投資家の双方に、利便性が高く、使い勝手の良いシステム基盤を提供してまいりたいと考えております。
日本銀行の新体制
- 問:
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日本銀行の新体制が決まりましたが、過去10年間の「異次元の金融緩和」をどのように評価しているか、また新体制にどのような金融政策運営を期待しているかお聞かせいただきたい。
- 答:
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金融政策は日本銀行の専管事項であり、信託協会長としてのコメントは適切ではないため、個人の見解としてお答えします。
まず、金融政策評価については、2013年から異次元金融緩和が始まりましたが、大幅な円高の修正、低迷していた日経平均株価の回復といったデフレ的状況から抜け出したという意味で、一定の効果があったと考えております。一方、異次元緩和が継続されるなかで、運用環境の悪化や預貸金利の利鞘の縮小など、金融機関の収益環境が悪化するといった副作用もあったと考えております。
また、新体制への期待については、今後、引き続き市場との対話を行いながら、日本銀行は、物価・経済の安定と、市場機能の安定という2つの役割があると思っていますが、その両立をしていただきたいと期待しています。
先ほど申しあげましたような政策効果と副作用のバランスがとれた政策運営がなされることを期待しています。
金融システム不安
- 問:
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先週から今週にかけてアメリカで銀行の破綻があり、昨日はクレディ・スイス株価が急落するということがあり、欧米で金融システム不安のようなことが見受けられるが、この一連の動きの受け止めと、今後注視していくことについて、ご見解を伺いたい。
- 答:
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米国のいくつかの地銀の破綻については、側聞しているところでは、流動性の枯渇による破綻であると認識しており、信用悪化が起点ではないことから、特殊な例だと認識しています。
したがって、結論から言いますと、システミックリスクに波及することではないのではないかと考えています。政府、金融当局は預金の保護や、国債を担保にした流動性の供給を素早く行っているので、現在それが広範囲に波及することは起こっていないことから、早晩落ち着くのではないかと考えております。
クレディ・スイスの話もありましたが、これも個社の特殊な事情だと認識しており、全般的な事情ではないのではないかとみています。
信託未来プロジェクトへの取り組み
- 問:
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昨年11月に信託未来プロジェクトのイベントが実施されたが、その後の動きや、会長から「1年くらいを目途に成果を出したい」旨のご発言があったが、その成果の状況をお聞かせいただきたい。
- 答:
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信託未来プロジェクトは主に2つの目的があり、一つは、信託の制度や機能が必ずしも皆様に知られている状況ではないことから、多くの方にそれを知ってもらいたい、使っていただきたいという周知活動であり、もう一つは、推進している4社が社会課題である「少子高齢化」、「人的資本経営」、「ESG」、「金融教育」の4つのテーマを整理して、何らかの提言や広報活動を実施していくという活動です。
前者の方は、You Tubeを活用して、4社の若手社員が自らいろいろな信託商品や身近にある信託制度について分かり易い形で定期的に発信しています。引き続きいろいろな形で広報活動をしていきたいと考えています。
後者の社会課題解決のための取り組みは、まだ始まったばかりであり、今チームで議論をしているところです。今後、外部有識者も交えて、勉強会、セッションを行い、研究発表や政策提言ができるかということを検討していきます。
日銀と政府との共同声明、日銀の出口戦略
- 問:
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先ほどの日銀の新体制について、植田新総裁が先月の国会での所信聴取で、現在の金融緩和を継続していく姿勢や政府の共同声明の見直しが必要ないことも明らかにしているが、この受け止めをお願いしたい。
また、それを受けて、日銀の出口戦略に関する見通しについて、個人的な見解で構いませんので伺いたい。 - 答:
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個人的な見解になりますが、黒田日銀総裁の金融緩和を継続する話と共同声明の見直しはしないというお話を植田新総裁がされたことについて、今現在はそのとおりであり、見直すのはまだ早いと思っています。ただ、共同声明も10年前のものになり、その時点からも環境は変わってきているので、定期的な検証や見直すのかという議論は行われていくのではないかと考えています。
また、出口戦略をどう考えるかについて、なかなか難しいですが、物価の安定と金融市場の安定のバランスを取った政策運営をしていただきたいということに尽きると思います。先ほど、お話した通り、金融市場も今、混乱しているので、今日明日に出口戦略が行われるとは私は思っていません。
信託型ステーブルコイン
- 問:
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ステーブルコイン関係であるが、冒頭、お話があったように改正資金決済法で制度整備が進んでいるところの評価と今後の普及に向けた課題を伺いたい。
あわせて、地銀などでもステーブルコイン参入の動きがある中で、信託銀行、信託業界としてどのように存在感をお示ししていくか、教えていただきたい。 - 答:
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資金決済法が改正されて、信託型のステーブルコインが発行できるようになります。発行者のリスクと切り離された形で、資産保全できるので、より安全で堅確なステーブルコインが発行できると考えています。利用者にとってはいいことだと思います。それをどうやって広げていくか、今、お話があった他の方々が参入してくる中で、どのように存在感を示していくかというのは、ユーザーのコミュニティ、参加する枠組みを確保する、広げていくということではないかと考えています。
個社の話になりますが、先ほどお話させていただいた「Progmat」という基盤を活用して、セキュリティトークンを発行しております。この基盤にステーブルコインを乗せて、セキュリティトークンとエクスチェンジできるという仕組みができると、証券と資金の同日決済が出来て利便性が高まり、トランザクションのリスクや信用リスクもなくなります。使い勝手のよさ、あるいは信用度の高さというものをどれだけ作っていけるかということが普及につながるのではないかと考えていますので、セキュリティトークンは一つの例ですが、普及を図っていけたらよいのではないかと考えています。
貯蓄から投資への取り組み
- 問:
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岸田政権のもとで、貯蓄から投資へという動きがあって、先ほども信託を広げていくという思いを仰っていたが、そういった政策の中で、新しいNISAもできるという中での信託協会、信託業界あるいは信託銀行としての取り組み、お考えをお聞かせいただきたい。
- 答:
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信託協会でもNISAに関する要望をさせていただいております。また、例えば、教育資金贈与信託等も資産形成につながる部分があるのではないかと考えています。税制改正要望を通じて、資産の移転を促していく、あるいは個人の方の資産形成を促進していくということで、取り組みを進めていきたいと思います。
また、投資教育も資産形成の上では重要であると考えており、信託協会では、例えば、大学に講師を派遣して講義を行ったり、地方公共団体や消費生活センターの勉強会に講師を派遣して金融教育のセミナー・勉強会を行ったりしています。投資教育は重要な課題だと考えているので、協会としてもバックアップできるように取り組んでいきたいと思っています。
以上