会長定例記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 高倉社長)
2022年03月17日
冒頭、川嶋専務理事より、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から会場を変更して開催したことを説明したうえで、本日開催された理事会において、「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会 報告書『ESG版伊藤レポート』」をとりまとめ、公表した旨の説明を行った。
高倉会長
信託協会長の高倉です。
それでは、就任時に掲げました2つの所信に沿いまして、1年間の活動をご報告させていただきます。
まず、第一に、「社会・経済の課題解決と持続可能な成長への貢献」を挙げております。①人生100年時代への対応、②ESG課題への取り組み、③「新たな日常」の構築への貢献、この3つのテーマに注力し、活動して参りました。
1点目の「人生100年時代への対応」は、確定申告が不要となるなど個人の財産管理の重要なインフラになっております特定口座制度について、信託を活用した場合でも利用できるよう税制改正要望を掲げ、金融庁にも採り上げていただきました。この結果、国税庁と現行法の解釈で明確化することになり、現在、協議を進めております。
2点目の「ESG課題への取り組み」は、企業のESGへの取り組み促進を目的とした研究会を立ち上げまして、学者の先生方、業界団体、関係省庁をお招きしまして、各種課題解決に向けた議論を行いました。研究会では「税制による後押しも有効」といった意見もありまして、当協会の税制改正要望に掲げております「損金算入可能な業績連動給与の算定指標に、ESG関連の非財務指標を加えること」につきまして、この成果を今後の活動に繋げていきたいと考えております。研究会につきましては、本日、最終報告書を公表いたしましたので、後程、川嶋専務理事よりご説明いたします。
3点目の「新たな日常」の構築への貢献では、新型コロナウイルス感染症によります地方移住への関心の高まりなど国民の意識・行動の変容を踏まえまして、信託や金融の力によります地方創生について、経済学者の方々と研究を進めました。お手元にお配りしました「信託」という冊子がございます。そこにその様子を記載しておりますが、この内容も踏まえ、各社にて商品やサービスの検討が進められればと考えております。
続きまして、第二の「受託者精神に立脚した安心の提供」につきましては、加盟会社への定例会合や信託契約代理業を担う地域金融機関等への研修を通じまして、法令改正等の情報提供ならびに法令遵守の徹底を図って参りました。本年は信託法と信託業法が制定されまして100年となります。引き続き、信頼の礎となります、お客さま本位の姿勢と忠実義務をはじめとする受託者責任を全うし、信託業務を確実に遂行することで、お客さまや社会への「安心」を提供して参りたいと考えております。
簡単ですが、以上がこの1年間の振り返りになります。
これまで申し上げました取り組みや成果は、当協会の活動に関係する全ての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。
最後になりますが、会長会社としての務めは、4月に三菱UFJ信託銀行さんに引き継がせていただきます。皆様におかれましても、今後とも信託協会の活動に対して、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
川嶋専務理事
それでは、私からお手元の「ESG版伊藤レポート」について内容をご説明いたします。報告書に添付している概要版をご参照いただければと存じます。
この研究会は、座長の一橋大学伊藤邦雄教授の下に、企業や機関投資家、金融業界団体や関係省庁等に参加いただいて、ご議論をいただきました。
概要版に「1.」から「5.」の見出しがありますが、こちらが報告書の章立てに対応しております。
まず、「1.サステナビリティを巡る国内外の動向」につきましては、ESGを巡る最近の国内外の動きを整理しております。
次に、「2.ESG を巡る関係当事者(企業、機関投資家、ESG 評価機関)の取り組み」におきましては、企業、機関投資家、ESG評価機関のESGへの取り組み状況を記述しております。
「3.ESG への取り組み促進に向けた課題」につきましては、取り組みの実効性の向上とESG指標の設置の課題について整理しております。
実効性の向上につきましては、具体的には社内コンセンサスを醸成すること、PDCAサイクルを確立すること、役員報酬制度と連動させること、エンゲージメントを通じた見直しといった点が挙げられております。
ESG指標に関しましては、経営戦略や役員報酬制度へ導入するESG指標において4つの課題が提起されており、具体的には透明性の確保、恣意性の排除、客観性の担保、業績との連動ということが挙げられております。
「4.ESG への取り組みの一層の実効性向上に向けて」は、今申し上げた実効性の向上という課題に対する方向性が記述されています。先進的な企業の取り組みと多数の機関投資家の目線を踏まえた、一層の実効性の向上策ということで、先ほど申し上げました社内コンセンサスにつきましては、全役職員に対してESGへの取り組み、意義を浸透させるために、役員報酬や人事評価制度へESG目標を導入することが有効である、とされています。PDCAサイクルにつきましては、独自性のあるマテリアリティ、重要課題でございますけれども、それを特定し、そのマテリアリティに基づく指標の設定と経営への実装、そして取締役会による監視・監督や第三者評価が有効である、との方向性が示されています。また、役員報酬制度については、同制度にESG指標を導入することは経営陣の本気度を示す手段として有効だという指摘がなされております。さらに、この取り組み促進の観点から、政府の後押し、先ほど会長の挨拶にもございましたとおり、税制面の改善も必要ではないかとの意見もございました。
最後に、「5.ESG 指標に関する各種課題の解決」につきましては、社外取締役を含む会議やステークホルダーとの対話を通じた議論・検証、決定手続きや将来業績との関連性等の適切な開示が必要であるという方向性でございました。具体的に申しますと、まず、経営戦略と書かれているところですが、指標の設定の仕方として、経営理念、パーパス、マテリアリティや経営戦略と関連し、企業価値や業績向上に資する指標を設定すべきであるとの方向性が示されています。また、役員報酬制度との関係では、経営戦略に基づく指標と役員報酬制度とを関連させて、評価プロセスや基準を明確化し、法令に基づき、その決定手続き等を開示するといったことが示されております。
概要の説明は以上となりますが、このレポートが、企業におかれましては、今後のESGへの取り組みの促進に、また機関投資家をはじめとしたステークホルダーの方々におかれましては、企業の取り組みを促すツールとしてご活用いただけると幸いだと考えております。また、ご存じのとおり、ESGにつきましては、関係省庁等で様々な検討が進められておりますが、こういった検討におきましても、この「ESG 版伊藤レポート」が少しでも参考になればと考えております。
以下、質疑応答
ESG研究会
- 問:
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ESG研究会の成果を踏まえて、ESG課題の解決に向けて今後信託協会としてどのような取り組みを行うのか。
- 答:
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先ほど、川嶋専務理事よりご説明した通り、当協会のESG研究会では、企業がESGに取り組むうえでの、実効性向上策や成果を測る指標の課題解決を検討して参りました。今後はこの内容を協会加盟各社による企業サポートに活かし、企業の取り組みを後押ししていきたいと考えております。また、冒頭申し上げた通り、当協会では、企業のESGへの取り組みを促進すべく、法人税法上、損金算入可能な業績連動給与に認められる指標に、ESG関連指標などの非財務指標を加えるよう、税制改正を要望して参りました。実現に至っていませんが、研究会では「税制により企業の取り組みを後押しすることも有効」との意見もあり、今後の活動に繋げていきたいと考えております。
「貯蓄から投資」への流れ
- 問:
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日本の個人金融資産は2,000兆円に届くが、まだ現預金が過半数。「貯蓄から投資」への流れを加速させるためには何が必要か。信託協会としての見解を伺いたい。
- 答:
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NISAやiDeCo等、「国民の安定的な資産形成」に資する制度の整備は着実に進んでいると認識しております。また、個社の話になりますが、確定拠出年金加入者に対する投資教育の実施により、同加入者の投資比率は向上しており、金融教育の重要性を改めて感じております。来月より高等学校での金融教育の授業が本格的にスタートいたしますが、高齢社会が進展する中、安定的な資産形成に取り組むためには、若いうちからの金融リテラシーの向上が重要です。当協会としても、従前より実施している講師派遣などの金融教育の提供を通じ、安定的な資産形成の促進といった政策的課題に貢献したいと考えております。特に我が国の未来を担う世代の「投資」に対する意識改革、また「投資」に挑戦する社会機運の醸成などに取り組んでいけたらと考えております。引き続き、信託業界として「貯蓄から資産形成」の流れを後押していきたいと存じます。
若年層の資産形成のケア
- 問:
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若年層が資産運用、資産形成する例は増えているが、足許のマーケットが不安定な中で損失を抱えている顧客も多いと思われる。この辺りのケアは信託協会としてどのようにお考えか。
- 答:
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投資教育は非常に大事なテーマだと考えております。皆さまもご承知の通り、株式や債券などのマーケット・市場は日々動いており、長いトレンドでみても好調な局面やダウントレンドなど色々な局面があります。これは過去の実績を見て、リスクの度合いをある程度数字も使って見える化が図られるようにはなってきました。こうした様々な指標を理解・分析する力を、投資教育を通じて若年層の方々に身につけてもらうことが大事なテーマであると思います。特に若年層の方であれば投資に関わる期間がまだまだ長いです。長い期間投資するという観点では相場の局面局面で一喜一憂するのは必ずしも重要なことではなく、長い運用期間の中でポートフォリオをどう作っていくのか、環境の変化や運用実績に応じてどのように、どのタイミングでリバランスしていくのか、といったリテラシーを身に着けてもらえるように我々は取り組んでいます。
個社の話で申し上げれば、投資を始められて間もない方々であれば相場の状況によっては心配される場面もありますが、その際に我々のコールセンターに電話相談いただくこともあれば、担当の者が適切にアドバイスさせていただくこともあります。加盟各社それぞれがビジネスとして取り組んでおりますが、各社なりの努力を行い、各社が抱えるナレッジ・知見を多くの方々に理解、共有していただいて投資にチャレンジしていく機運を起こし、社会に資金・資本・資産の好循環が生まれるように取り組んで参ります。
ロシア・ウクライナ情勢
- 問:
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投資信託の中には、ロシアの株式やソブリン債を投資対象にするものもあるが、足許でロシアのソブリン債のテクニカルデフォルトや送金制約がある中で、資産運用・資産管理を担う業界として現状をどのように見ているのか。
- 答:
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ロシア・ウクライナの紛争で多くの犠牲者が出ていることについて、犠牲者の方々、ご家族の方含め哀悼の意を表したい。先行きは不透明であり、憂慮しております。様々な金融制裁により、ロシアの債券・株式売買が困難になっている状況です。各社の損益に影響が出ているというよりは、実務に影響が出ています。協会加盟各社も多くが資産運用・資産管理をビジネスにしておりますが、入金や決済といった実務において一つ一つ確認・点検しながら対応していくことが必要であり、各社苦労しながら取り組んでいるところです。ロシア関連の資産が組み込まれている投資信託に対して、投資家は様々な情報を欲しがっておられると思っており、情報を適時適切に提供することを日々励行しています。一刻も早い平和的な解決を望んでいます。
日米金利差の拡大
- 問:
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昨日のFOMCで今後の利上げペースが明らかになった。今後日米の金利差は開いていくことになるが資金運用に与える影響は。
- 答:
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米国の利上げ後、すぐに動くというものではなく、様々な要素が絡んでマーケットは動いていきます。一般的な話では、日米の金利差が拡大すると円安の傾向になりますが、足許の状況を見ると、エネルギー価格も上昇しており、日本は経常赤字が大きくなる流れにあります。そのため、円買いが進みにくく、やや円安の方向に流れています。為替の大きな流れがどう進んでいくのか、日々の相場に聞いてみなければわからないですが、過去において、ファンダメンタルズの弱いあるいは政治面での不安定要素を抱える新興国では、資金流出や為替の急落が起きたため、こうした経験から多くの投資家は注意しながらマーケットに臨んでいるのではないかと認識しています。
マイナス金利政策
- 問:
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日本は依然としてマイナス金利政策が続いている。信託業界はマイナス金利の影響を受けている業界だと思うが、改めてマイナス金利に関する所見を伺いたい。
- 答:
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マイナス金利政策は過去に経験のない施策としてスタートし、信託業界でも、マイナス金利の負担がある加盟各社があるのは事実です。ただし、マイナス金利は、一つの要因で導入を決めるものではなく、経済全体のバランスの中で日本はマイナス金利の導入を選択しています。今後、諸外国の方針転換も受けて、政策当局での議論等も踏まえ、適切に取り組まれるものと考えており、加盟各社はそのような状況を注視しながら様々なリスクに対する備えをしていくものと考えています。
アクティビスト
- 問:
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アクティビストの活動が活発になっている印象。その背景をどのようにお考えか、また証券代行業務を行う信託業界としてどのような助言ができるのか。
- 答:
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アクティビストという表現は別として、足許では、株主からの提案が多くなっている状況にあります。ご提案内容も、世界的に見ても環境や社会に対するテーマに関心が高まっています。いずれにしても、株主と投資家は、中長期的に企業価値や株主価値の向上を考えて提案を行っていると思います。2021年には日本でもコーポレートガバナンス・コードを改訂し、サステナビリティの観点をより強く意識したものになったこともあり、加盟各社で証券代行業務を営んでいる社においては、発行体企業から様々な相談が増えている点は事実として認識しています。各社とも環境や社会の課題にどのように対応すべきかという観点で、様々な事例も含めて知見を収集し、アドバイスできる体制を整えて取り組んでいます。特に、気候変動等のテーマについては、従来とは少し違った切り口でのご提案・ご質問がなされる状況にあり、日々情報収集を行いつつサポートに向けた努力を続けています。
コロナ禍における信託業界
- 問:
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この春でコロナ禍となり2年経過する。所信でも金融業界でのデジタル化やキャッシュレス化を進めるとされたが、信託業界、信託銀行として、この2年間でビジネス面などどのような変化があったか。
- 答:
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依然としてコロナ禍が収束しておりませんが、この2年間信託業界でも様々な出来事があり、各社が工夫をしながら取り組んでいます。わかりやすいテーマを挙げれば不動産ビジネスです。Eコマースの革新により、データセンターや物流施設の分野は好調が続いています。一方オフィスは在宅勤務が進み、都心のオフィスでは、従前では強気で見られていたところも多かったのですが、弱気とはいかないまでもこれからのオフィスの使い方をどのように見直していくのかを企業では考えているところだと思います。またホテルなど商業関係は厳しいです。デジタル化の関係ではバーチャル総会に取り組む企業が増えており、株主からもバーチャル総会の運営を検討しないのかとの問い合わせが各企業に寄せられています。また、コロナ禍で不安が大きい中、資産承継や事業承継の分野でも、万一への備えに関心が高まっており、業界として手ごたえを感じます。webで相談を受ける機能が整っている加盟会社も増えてきており、業界として努力して工夫しながらやっているのが見えてきていると考えています。
成年年齢の引き下げ
- 問:
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成年年齢の引き下げについて信託業界でも相続など影響があるかと思うが、協会として何か決めている対応方針はあるのか。
- 答:
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今のところ信託分野において、各社共通で取り組むべきことはクローズアップされている状況ではないと認識しています。成年年齢の引き下げにビジネスでどう対処するのかは各社それぞれが考えて取り組むことになろうかと思います。
以上