会長定例記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 高倉社長)
2021年10月21日
冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、「規制改革に関する提案」をとりまとめ、内閣府規制改革推進室宛てに提出した旨の説明を行った。
また、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。
高倉会長
信託協会長の高倉でございます。
それでは、この半年間を振り返りまして、これまでの活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。
協会長就任時に所信として、「社会・経済の課題解決と持続可能な成長への貢献」と「受託者精神に立脚した安心の提供」の2点を掲げています。
第一の「社会・経済の課題解決と持続可能な成長への貢献」については、①人生100年時代への対応、②ESG課題への取り組み、③「新たな日常」の構築への貢献、の3つのテーマに注力し、活動してまいりました。1点目の「人生100年時代への対応」については、誰ひとり取り残されることなく金融サービスにアクセスし、その恩恵を受けることが出来る「金融包摂」の一環として、個人の財産管理の重要なインフラである特定口座制度について、信託を活用した場合でも利用できるよう税制改正要望を掲げており、金融庁にも採り上げていただいています。2点目の「ESG課題への取り組み」については、企業のESGへの取り組みを促進するため、研究会を立ち上げ、学識経験者、経団連や金融関連団体、また金融庁、経済産業省、環境省をお招きして、各種課題解決に向けた議論を行い、先般、中間報告書を公表したところです。研究会の概要については、後程、川嶋専務理事よりご説明いたします。3点目の「新たな日常」の構築への貢献については、新型コロナウイルス感染症拡大は、地方移住への関心を高めるなど国民の意識・行動の変容をもたらしており、信託や金融の力による地方創生への貢献について、経済学者とともに研究を進めています。また、お客さまの行動様式の変化を契機に、非対面コンサルティングによる各種手続きなど、金融のデジタル化についても創意工夫を重ねているところです。
第二の「受託者精神に立脚した安心の提供」については、これまで述べた社会・経済環境の変化への貢献の前提として、引き続き、お客さま本位の姿勢と忠実義務をはじめとする受託者責任を全うし、信託業務を確実に遂行することにより、お客さまや社会への「安心」を提供して参ります。
川嶋専務理事
信託協会に設置した「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」についてご説明します。
研究会は、一橋大学伊藤CFO教育研究センター長を座長に、学術研究者やコンサルティング会社、経団連、金融業界団体、またオブザーバーに金融庁、経済産業省、環境省にも参加頂き、本年4月に設置しました。
研究会ではESGを巡る国内外の動向を確認するとともに、企業や機関投資家、ESG評価機関の取り組みをヒアリングし、各種論点と解決の方向性について議論を重ねており、この内容をお手元に配布しています中間報告書として9月16日に公表しています。
今後、特に重要な論点と考える、ESG取り組みにおける一層の実効性向上とESG成果指標の「恣意性の排除」「客観性の担保」等にかかる各種課題解決策について、より具体的に議論していく予定です。
以下、質疑応答
ポストコロナの経済
- 問:
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ポストコロナの経済見通しと経済再開にあたっての政府への期待・要望は。
- 答:
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経済活動の正常化の過程で、サービス消費などの一時的な過熱が予想されています。飲食や宿泊、旅行を控えざるをえない状況が長期化していることからの予想です。しかし人の国際移動など、コロナ前の水準には戻りにくい分野もあります。こうした産業分野に対して、適切な支援が続けられることが望まれています。
また、新たな変異株の出現によって感染が再拡大するリスクは依然として残っています。ワクチン接種の一層の進展やワクチンパスポートの活用などにより、感染拡大の動向に左右されにくい体制へ移行していく必要があると考えています。
政府への期待・要望については、まずは岸田総理大臣の就任、および新内閣の発足に対して心からお祝いを申し上げたいと思います。
3名の女性閣僚を登用されるなど、D&Iの観点も意識されたバランスの取れた布陣となっているように思います。
所信表明で、「新型コロナウイルス感染症対策」や「新しい資本主義の実現」、「国民を守り抜く、外交・安全保障」の3点を軸として所信を述べておられました。
いずれも非常に重要な施策であり注視していきますが、特に「新しい資本主義の実現」における「成長と分配の好循環」について注目しています。
この中では、カーボンニュートラル実現に向けた対応や、人生100年時代の不安解消に向けた取り組みについて述べておられ、今後具体的な施策が立案・実行されるものと思いますが、信託業界としましても、わが国の持続的な成長の実現に向けて、自らの役割として、こうした重要な課題に対して確りと取り組む必要があるものと考えています。
個社の話にはなりますが、従前から「企業価値の向上による果実を家計にもたらす資金・資産・資本の好循環の構築」を掲げて、企業の成長を家計に分配していく役割を果たしていきたいと考えており、総理の課題認識とも方向性が一致していると感じています。この点についても今後とも確りと取り組んでまいりたいと思っています。
特定口座要望の狙い
- 問:
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特定口座要望の狙いやその顧客や信託銀行にとってのメリットは。
- 答:
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人生100年時代の中で、将来の生活に備えるための資産形成と高齢期における財産管理に対する、お客さまの関心やお悩み・不安が高まっていると感じており、資産運用と財産管理機能を有する、信託への期待は大きい状況です。しかしながら、例えば、確定申告が不要となるなどの税制上の恩典がある特定口座で管理された投資信託の受益証券を信託した場合に、引き続き個人の資産形成や財産管理の重要なインフラである特定口座制度を利用することができるか、税制上の取扱いが必ずしも明らかではございません。このため、今回の税制改正要望を通じて、信託を利用した場合に投資者保護や顧客利便性が劣後することがないように、「信託における特定口座利用の明確化」を図り、お客さまのニーズにお応えするサービスの充実・普及と、「金融包摂」の実現に貢献して参りたいと考えています。
アクティビストへの対応や買収防衛
- 問:
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近年日本でも敵対的買収という事例が増えているが、その背景についてどう分析されているのか。
また信託銀行は証券代行業務を行っており、買収防衛策のコンサルティングを提供されているが世の中の潮流にどう対応していくのか。 - 答:
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コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが浸透し、アクティビストをはじめとする株主の発言力が増していることが背景にあるのではと考えています。本年6月の株主総会では株主提案を受けた企業数が48件、うちアクティビストによるものが18件となっています。そうした動きを受け、協会加盟会社でも証券代行業務を行っていますが、各種ご相談が発行体のお客さまから寄せられています。我々はコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが求められている社会背景に留意しながら発行体の皆さまの課題について真摯に向き合いご対応させていただいています。
金融所得課税
- 問:
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岸田総理は金融所得課税の強化に一時言及され、その後今回の税制改正では見直さないと明言されたものの、コロナで傷ついた国家財政の反動で議論が再燃する可能性がある。これについてどのように受け止めているか。
- 答:
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金融所得課税の見直しについては、所得税が累進課税である一方、金融所得については税率が一定であることにより、高所得者層ほど所得税負担率が低下している実態に対し、何らかの措置の必要性を検討するものと理解しています。岸田総理からは「成長と分配の好循環」を実現できるよう様々な選択肢がある中で、今年度の税制改正での議論は予定されていないという話があったと認識しています。見直しの是非についてのコメントは控えさせていただきますが、税の公平性は勿論、貯蓄から投資への流れにも影響を与える可能性が考えられる事項と思いますので、金融市場への様々な影響にも配慮頂きつつ検討を行っていただきたいと考えています。
四半期開示の見直し
- 問:
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岸田首相が企業の四半期開示の見直しについて触れた。海外からの投資を呼び込もうとしている中、開示に後ろ向きな姿勢と受け取られかねないかという見方もある。投資家からは継続を求める声が根強いが信託協会はどう考えているのか。
- 答:
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四半期開示については、様々な議論があります。企業の側から見れば開示が進むと投資家に理解してもらう機会が増える一方で、それだけの負担もあります。現時点で何か具体的な議論が行われている訳ではないと認識していますが、四半期といった時期のみならず、非財務情報含め、必要な企業情報の開示が全体としてタイムリーに実施され、企業と投資家の間の実効性ある建設的な対話が進むことが重要です。信託業界全体としては、機関投資家の立場でもあり、またお客さまへガバナンスに関するご相談を受けソリューションを提供する立場でもありますので、検討状況を注視してまいりたいと考えています。
ESG研究会
- 問:
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ESG研究会について、今後最終報告書をまとめられると思うが、それ以外に提言などのアウトプットは検討されているのか。
- 答:
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冒頭、川嶋専務理事よりご説明した通り、信託協会では本年研究会を立ち上げ、ESGの取り組みに係る各種課題の解決に向けた検討を現在行っているところです。信託業界は、信託の受託者であるとともに、機関投資家の立場、お客さまへのガバナンスに関するソリューションを提供する立場も担っています。お客さま本位の姿勢や忠実義務をはじめとした受託者責任を全うするとともに、「スチュワードシップ活動」と「コーポレートガバナンス改革」の両面から、持続可能な社会・経済の実現に貢献してまいります。最終的にどういった形でまとめていくかはこれからの議論によると考えています。
規制改革要望
- 問:
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本日出された規制改革要望の新規要望項目で特に重要視されていることは。
- 答:
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お手元のニュースリリースのとおり、規制改革に関するご提案を出しています。お客さまの利便性向上や信託業務の運営効率化・適正化を図り、信託の普及・発展に繋げていく目的で、お手元にございます通り計9項目を提言させていただいています。各項目詳細についてはニュースリリースをご確認いただければと思います。
(川嶋専務理事)
本日ニュースリリースで出した項目に関しては、信託業界において、金融デジタル化の進展や非対面チャネルへの一層の対応等を求める意見があったところです。
業務の効率化やそれによる顧客のコスト削減など様々な要素をそれぞれの項目が持っていますので、重要性の選別はしがたく、我々としましては全ての実現を目指して取り組んでまいります。
役員報酬へのESG指標連動
- 問:
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セブン&アイのようにCO2の削減目標と役員報酬を連動させる動きがあるが、その受け止めについて。
- 答:
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協会でESG研究会を立ち上げていますが、本年10月1日時点で日経225に採用される日本企業のうち、役員報酬にESG目標を連動させている企業は、225銘柄中43社と全体2割弱ということを確認しました。一方で、英国や米国の指数に採用されている欧米企業では5割を超えており、年々増加傾向にあります。
このような欧米企業がESGに連動した報酬を採用している状況を踏まえ、当研究会に参加する機関投資家からは「役員報酬とESG目標の連動はESGへの取り組みに係る経営の本気度を示す手段として有効」とのコメントがありました。個社の経営判断に係るものであり、協会長として賛否についてのコメントは差し控えたいが、このような企業の取り組みが、日本企業全体に波及することで、持続可能な社会の実現に繋がっていくことを期待しています。
- 問:
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ESG指標に基づく役員報酬を損金算入できるよう税制改正要望を協会として出しているが、実現しない理由について、どのように考えているか。
- 答:
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現状、業績連動給与として損金算入が認められる「利益」「株式の市場価格」「売上高」といった指標と比べ、ESG指標については「評価の透明性」「恣意性の排除」「客観性の担保」「業績との連動」などの課題があり、これらが要望実現に至っていない要因であると考えています。
企業のESG への取り組みを促進するためには、その実効性と情報開示の質の向上、また、その成果を測るESG指標に係る課題が考えられ、本年4月当協会に設置した研究会においては、これらの課題解決の検討を実施しています。お手元にお配りしている資料は、その検討状況を中間報告書として取り纏めました。
今後も、当協会としては本研究会にてこれらの課題に係る詳細な検討を重ね、企業のESGへの取り組みを促進していきます。
コロナ禍を受けた取引の変化
- 問:
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コロナ後、不動産の所有について企業の考え方が変わった。コロナを受けた取引先ニーズの変化をどう受け止めているか。
- 答:
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コロナを受け取引先のニーズは変わってきています。当社のビジネスで申し上げると不動産は様子が変わりました。好調なものはeコマース、データセンターに関する投資意欲は従前より高まってきました。一方で、企業それぞれ事業の内容も見直され、遊休不動産などの対処方針などの検討も進めているようです。そういう意味で不動産は信託銀行全体で注力している分野でありますので、様々な顧客のニーズが顕在化していると感じています。コロナでオフィスの在り方も変わり、在宅勤務等が進み、企業で働く方の住居の選択も変わってきています。比較的郊外で広めのお宅を求める社員も増え、それに伴う住宅ローンの相談も増えています。そういうニーズを企業側からも、社員側からも感じています。証券代行で言うとバーチャル総会を検討する、チャレンジする企業も増えてきています。我々としてもデジタル技術を活用してサポートし、利便性をあげていきます。個人のお客さまで言うと、家族が集まって元気なうちに事業の承継や相続の相談をするケースが多くありました。銀行には相続や事業承継に関する相談も増えました。協会全体として、コロナ前に比べビジネスの機会、お客さまにお役に立てる機会が少し変わったかたちで顕在化しているので、各社の工夫を後押していきたい。
成年後見制度
- 問:
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信託業界では「後見制度支援信託」を提供しているが、成年後見制度全体でみると利用者は伸び悩んでいる。課題についてどのように考えているか。
- 答:
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高齢化社会の進展に伴い、認知症を発症する事例も顕在化してきています。かかる中、信託業界の加盟会社では、認知症を発症する前に様々な選択肢を以て意思決定できるよう、様々な商品・サービスを提供しています。高齢者の状況に応じて、成年後見制度の対象となる場合もあるし、任意後見制度などの他の方策を選択することもあり、顧客の状況に応じて相談に乗っています。信託業界では、後見制度支援信託に取り組んでいますが、本年3月末時点の受託件数は約19,000件、受託残高が約6,000億円と相応の規模となっています。同商品は、後見人の財産管理をサポートするための社会的に意義のある信託商品として、今後も高齢化社会の進展により利用ニーズは増加すると考えており協会としても引き続きサポートして参ります。ご質問の課題については、長生きされる方が今後も増える中で様々な課題が顕在化してくると思われるので、信託各社が知恵を出して取り組んでいくほか、協会としても取り組むべき事案が出てくると思われるので、業界として社会に役立つ取組みを進めて参ります。
税制改正/個人資産課税
- 問:
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与党の中では、個人資産課税の相続税と贈与税を一体的に課税し、資産の移転時期に中立的な税制を構築すべき、との議論が一部見られるが、どのように考えているか。
- 答:
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様々な観点で以前から議論がなされているが、一つの論点で意見を申し上げるテーマではないと考えています。論点を洗い出した上で、多くの関係者の意見を仰ぎながら、よい議論が交わされ、公平な社会となることを望んでいます。
以上